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▼ フォーリング・ダウン




過剰な接触の理由が判明した。
だから、こう申告した。

「いいよ、灰崎。お前がそれを望むなら、好きにすると良い」

無意味な行為は、これでお終いにして欲しいと。
願えば、灰崎は意外そうに目を見開いていた。



日常的に提案されていたことがある。
「お前もさ、部活のことばっか考えてねぇでもっと他にも目ぇ向けろよ。女作れば?」
「…生活の何に重点を置くかはその者の勝手だ」
「心配してやってんだろ」
「それは押し付けと言うんだよ。…こちらから言わせて貰えば、灰崎、お前の生活態度は目に余る。少しは改めたらどうだ」
「…それオレのこと心配してくれてんの?」
「そうだよ。どんな気分だ」
「驚くほどムカつくわ」
そう言いながらも灰崎は、事あるごとに同じ節介を焼いてきた。
煩わしくてかなわない。あまつさえ、こちらの性知識を探るような言動まで飛び出してきたから。


「赤司!灰崎はどうした?」
「…知りません。オレに聞かないでください」
「は?…何だよ、あいつと何かあったのか?」
休日練習の集合時間に灰崎が姿を見せなかったせいで、主将がオレに所在を確認して来る。その折に、つい。たまっていた不満を漏らした結果、主将はオレに示唆してくれた。
灰崎がオレに過剰接触を試みるのは、オレが灰崎に対して分厚い壁を作っていることが原因なのだろうと。
「あいつ、性根腐ってっからな。お前が嫌がる顔見て喜んでんだろ」
「…甚だしく迷惑な話です」
「だろうな。…どうせ赤司がハッキリ迷惑だっつってもあいつは余計に調子乗るだろうし。どうしようもねぇ奴だよ」
「何が目的なんですか?」
「目的、なぁ…。んなもん考えてねーだろうけど、まぁ、アレじゃね?お前のガードを崩してみてぇとか」
「……はぁ」
「いや、だからってお前がんなことする必要はねぇけど。…なあ、赤司。そんなにあいつが迷惑なら一発ぶん殴って懲らしめてやるか?どうせ説教しても通じねぇだろうし」
「いえ、主将にそこまでして貰わなくても、…自分の事です。解決を試みます」

主将から得たアドバイスを元に、オレは考えた。
拒絶すればするほど接触が盛んになる。反抗が彼の興味を惹くと言うのなら。主将の言うとおり、一度でも灰崎の提案を受け入れれば、オレへの興味を失う可能性は高い。
ならばと、検討を重ねた結果。


「なぁ、赤司ー。お前最近イライラしてねぇ?」
「…そう見えるか?」
「見える見える。たまってんじゃねーの?」
「…どうだろうな」
「適度にヌいた方がいーぜ?あ、お前お坊ちゃんだからやり方わかんねぇ?手ぇ貸してやろっか」
「……そうだな」

その機会は予想以上に早く訪れた。
先日の懲罰メニューを灰崎に指示し、完遂を見届け、部室に引き上げ着替えを終えた際。
結んだばかりの制服のネクタイを解きながら、灰崎の望みを受け入れ。無意味な応酬の終着を願った。



シャツのボタンを外す指先は、驚くほど器用な動きを見せた。
馴れているのだろう。灰崎の顔を見上げながら、彼の背景を推測する。
「…何か、聞きてぇことがあるってツラしてんな?」
「ああ、聞いておこう。ボタンを外す意味はあるのか?」
「は?いや、セックスすんだろ?」
「男の上半身に性感帯はないだろう。愛撫する必要はないよ。使うのは、こちらだ」
言いながら両手をベルトのバックル位置に運び、留め金を外す。すると灰崎はやや焦った表情で、オレの手に自らのそれを重ねてきた。
「…なんだ?」
「あ、慌てんじゃねーよ!そりゃこっちでやってやっから、お前は大人しくしてろ!」
「…騒いでいるのはどちらだ」
「動くなっつってんだよ!…ったく、やり辛ぇな」
要望を受け入れ、両手をだらりと下げる。外しかけたベルトはそのままに、灰崎の手がオレの胸にぺたりと触れる。その手先をじっと見ていると、灰崎の手はそこから離れた。
「…やっぱやめた。お望みどおり、先にこっち触ってやるよ」
視線で追う。するとその右手はやはり器用にオレのベルトを抜き取った。
ホックを外し、ジッパーを下げたところで胸中に戸惑いが走る。無意識に伸びたオレの手を見て、灰崎が視線を上げた。
「んだよ?この手は」
「いや、…お前が、一方的な奉仕を進んで行うのが意外だと思ってね」
「は?…なに、お前もしてくれんの?」
「しようか?」

問題発言をしている、と自覚はしている。
こんなことを言い出すつもりはなかった。やはり、同性に下半身を曝け出すことにオレは抵抗を感じているのか。それを紛らわすためとはいえ、自分の口からこんな自虐的な提案が飛び出るとは。
灰崎も意外に思ったらしい。目を見開き、そしてにたりと笑った。
「してぇっつーならさせてやってもいーぜ?しゃがめよ」
早くも後悔する。だが、言い出したのは自分自身であり、回避する行動も言葉もすぐには思いつかない。
指示されるままにその場に膝をつき、灰崎の制服に手を掛ける。見下ろされる視線が不快に感じた。

「…悪かねぇ眺めだなァ?赤司、咥えてみろよ」
「…少し黙っていてくれ」

衣服を寛げ、下半身を露出させ、指先で包む。想像していたよりも、接触に対する不快感はない。シャワーを浴びた直後だからだろうか。
灰崎の要求を、飲み込めそうな気がした。



「…ッ、…赤司、歯、立てんなよ」
「……」
努めて無心になりながら灰崎の性器に舌を押し当て、唇と右手を使用して摩擦を与え続けると、上方から苦しげな指示が飛んでくる。
意識してそうしたつもりはないが、当たったらしい。唇でカバーしろ、と難解なことを言ってくる。無視して口淫を継続した。
「…オイ、聞いてんのか?ヘタクソ」
「…その稚拙な愛撫で勃起している男は誰だ?」
「あァ?…クソ、やっぱ可愛くねぇな、お前は。…もーフェラはいーよ。離れろ」
「射精は?」
「…オレは外で出すのがキライなんだよ。つーかお前、ボッキとかシャセーとか真顔で言うな。こっちが恥ずかしくなんだろ」
「…へぇ」
「…何笑ってんだよ、クソ」
発する単語が相手にどれほどの心理的作用を与えているのか計ることは出来ない。だが、右手の中にある性器の硬度が増した事実を目の当たりにすれば、それなりの効果を表していると知る。
あえて指先に力を込めれば、押し殺した呻き声が聞こえた。
「てめ…ッ、握ってんじゃねーぞ?!」
「お前は、よく平気で自身の急所を他人に委ねるな。理解し難いよ」
「あぁ?!…お、お前、まさか…」
「潰しはしないよ。せっかくここまで育て上げたんだ。…そうだな、今はこのグロテスクな形状にも、親しみが持てるよ」
「……だから、そういうの真顔で言うなって。つーか、お前にもついてんだろ、これは」
「……」
「…黙んなよ。…え?いや、…ついてねぇとか言うなよ?」
「お前は馬鹿だな」

明らかに焦燥の色を滲ませながら言う灰崎に、率直な感想を伝える。
どこまでこの男は頭が悪いのか。呆れながら手を離し、そのまま自身の腰へと下ろす。
「あ、赤司…?」
「同性であっても、性器の形は均一ではない。それくらい分かるだろう」
「…いや、お前が言うと何か、」
「オレにもコレは、ついているよ」
視線を床へ落とし、ゆっくりと手を動かす。下半身を露出することへの抵抗がなくなったわけではないが、灰崎のこの狼狽がオレの気を緩めたのは確かだ。衣服を下へずらすと、灰崎はオレの前に膝をついてまじまじとオレの下半身を凝視した。
「…なあ、聞いてもいい?」
「…何だ」
「これってやっぱ未使用?…何つーか、随分とキレイな色してんな」
「……」
「小学生みてぇな」
「灰崎…」

体格が違えば、身体のパーツのサイズも異なるのは当然だ。
灰崎が揶揄してくることはある程度予測はしていたが、実際に言われると腹が立つ。落とした視線を持ち上げ、相手を睨む。するとそこには予測と反する表情があった。
「は、灰崎…?」
「…いや、ちょっと、まァ、…こっちもキョドってる。何つーか、まさか、野郎のチンコ見て、こう…」
「…頼みがある。それ以上言わないでくれないか」
「恥ずかしい?」
「屈辱を感じるよ」
視線を逸らしながら言う。そうしたところで、まずい、と思った。
「へぇ、いいな、それ。…もっとよく見せてみろよ、そのツラ」
言葉選びに失敗した。こんな言い方をすれば、つけ上がって調子に乗る男だと言うことをオレはよく知っていたはずなのに。
「聞こえてんの?赤司」
「……」
「黙るなよ。なァ」
挑発的な物言いに応じて、一度瞬きをしてから視線を戻す。そしてまた驚くことになる。灰崎の表情が真剣なものだったからだ。
「…なんだ、その顔は」
「は?何だって、普通だろ。…お前こそなんだよ。恥じらってるつもりか?」
「え…?」
「…らしくねぇなァ?セイジューロー。…照れてんじゃねーよ、感染るだろ」

照れている。感染する。言われて初めて、理解した。
いま自分たちがどんな格好で、何をしようとしているのか。互いに下半身を露出し、向き合って、真顔で無駄な会話をして。その先の行為を、想像して。

「…触るぞ」
「……」
簡単には承諾出来ない要求を灰崎が口にした。
あるいはこれは、要求ではなく宣告なのかもしれない。
「いいな?」
「……あぁ」

こくりと首を縦に振る。
ゆっくりと、灰崎の指がオレの下腹部に触れる。
その感触にぞわりと肌が粟立ち、思わず灰崎の額に手を当て止めようとした。
「は、灰崎…、やはり…」
「無茶言うな」
逃げを打つなど、オレの信条に反している。それでも咄嗟に漏れ出た拒絶は、間髪入れずに却下される。
「…ッ!」
指が、腹から下へ伝う。異様な感覚に息を飲み、制止を請おうとしたところ。
灰崎は、吐き捨てるような言い方で呟いた。

「待てよ、オイ…。…赤司、テメェ…。ふざけんなよ」

待て?それは、こちらのセリフだ。











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