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▼ すずしいのは見た目だけ





赤ちんの皮膚が熱くなってると、何だか意外な気がする。

「…それは、僕の生態を否定していると考えてもいいか?」
「生態とかじゃなくてー。ほら、赤ちんってさ、夏場の蒸し風呂みたいな体育館で走り回ってても全然平気そうだったじゃん。みんなあちぃあちぃってヘバってんのに、赤ちんだけ平然としててさー」
「僕だって暑いと感じる時はあるよ」
「でも顔に出ないし、どっちかって言うと涼しそうな顔してたから、オレ赤ちん見ると体感温度2、3度下がってたよ」
「…へぇ。それは良かったね」

そう言う赤ちんの声の温度はすごく低い。もしかして、怒ってる?顔を覗き込むと、赤ちんはきつい目でオレを睨んできた。

「…敦」
「なに?赤ちん」
「敦の目に今の僕がどう映っているか分からないけれど、率直に言う。そろそろ限界だ」

早くしろ、と先を促す赤ちんは。
自分の体内にこもっている熱を一刻も早く外に逃したいみたいで、この人にしては珍しいおねだり発言を受け取ったオレは笑いながら熱を持った皮膚にキスをした。



赤ちんの表面温度が急速に上昇したのはオレの責任。
インターハイ閉会式の後、たまたま赤ちんの学校が宿泊してるホテルの名前を小耳に挟んで。それはうちの宿泊先と近かったから、ふらりと立ち寄って待ち伏せして、帰ってきた赤ちんを捕まえて部屋に入れてってお願いした。
赤ちんは文句言うことなくオレの願いを聞き入れた。室内には二人分の荷物があったから、たぶん同室の人は追い払ってくれたんだと思う。中学の時のチームメイトと、大事な話があるとか何とか言って。よく分かってる。だからオレは無言で赤ちんをベッドに突き倒して馬乗りになって、いろんなところを触った。

真夏、締めっきりの室内。エアコンのスイッチを入れる手間も惜しんだオレたちは、久しぶりの接触とそれが引き金で高ぶった興奮のせいで物凄い熱気に蝕まれることになる。
さすがの赤ちんも、汗だらだらになってオレを見上げてる。でも強気なこの視線が、オレの脳裏に過去の記憶を呼び醒ました。

赤ちんは茹だるような真夏の体育館でも、凍えるような極寒の空の下でも、いつでも変わらず涼やかな表情を保っていた。
見ているだけでひんやりとする。その冷たい眼差しが、嫌いじゃなかった。


「目ぇ開けて、赤ちん」
「ん…、…何だ?」
さんざん触りまくってお互いに臨戦体勢になったところで、オレは赤ちんの熱くなってる頬を撫でながらその冷たい目を開けさせた。素直に言うことを効いた赤ちんの目蓋の奥から、異なる色彩が現れる。少しだけ、水気をはらんでる。
「もう挿れるから、見てて」
「…見る?何を?」
「オレの目。じゃないと、ゆっくり出来ないから」
充分に解した穴から指を抜く。う、と苦しげな声を漏らした赤ちんは、一度瞬きをしてからしっかりと目を開く。見てる。確認して、棒を宛がう。
「敦…」
吐息混じりの声は、すごく熱い。だけど今のオレはその熱さを不快に思わない。何なら口から吸い込んで、熱を取り込んでも平気だと思える。赤ちんの目が開いている限りは。
「…っ、う、…ん、」
ゆっくりと。狭い穴に太い棒を差し込んで行く。赤ちんが息を飲む。力を抜いて欲しくて頬にキスする。
「あ…、あつ、し…、っ」
「…ちゃんと目開けてて。痛くても、ガマンして」
「…ッ、は、やく…、して、くれ…っ」
「ダメだよ、傷つけちゃうし」
じわじわ開いて圧迫する。その焦れるような感覚は赤ちん的にちょっと気に入らないみたいで、さっさとラクにしろって言ってくる。でもそれは聞けない。昔勢いでやっちゃったときに下半身血まみれになったじゃん。ああいうの、好きじゃないからさ。
「う、う…、っ」
「赤ちん、目」
「ぅ、あぁ…、あ…っ」

あやうく閉じそうになった目蓋を無理やり指で押さえて開かせて、挿入を深める。全部は、入らないかな。こっちも結構キツイ。
でもオレよりもきつそうな赤ちんが、両目を開いてオレを睨んだから。たぶん、ちゃんと挿れないと怒られるかなって思って、もう一息、ぐいっと頑張った。

「あ…ッ、ん…」
「…っと、狭いよねー…、赤ちん、欲張るならもっとここ拡張しといてよ」
「…そ、だな…、…半年のブランクが、ここまでとは、…思いもよらなかった、…は、ッ」

苦しげに、途切れ途切れに強がる赤ちん。
赤ちんのプライドにかけて言わないでおいてあげるけど、半年前も別に余裕じゃなかったよね。赤ちんのここは、最初から今日までずっとオレのサイズには適してない。
身体の相性良くないよね。口にはしないけど、互いに認識してること。
でもさ、オレはそれでいいと思うよ。相性よくないのに、痛みを伴ってばかりなのに、赤ちんが苦痛に耐えてオレのことを受け入れてるこの事実はさ。

相当、好きってことなんだろ?

「敦…、」
苦しげな喘鳴混じりに名前を呼び、赤ちんの両手がオレの顔面を頼りなく掴んでくる。
目を見てる。見られてる。淡い色の両目にはさっきよりも水分量が多く湛えられていて、ちょっと瞬きするとたらりと目尻に沿って伝い落ちるのが。視覚的に、涼やかだ。

「あつ、し…」
「なぁに、赤ちん」
「…あ…」
「ん?」
「……熱い」
「そう?オレは、快適だよ」
「……」

赤ちんは何か言いたげに瞳を揺らして、それからまた瞬きして。ゆっくりと息を吐くと、収まったところが少し緩んでラクになれた気がした。

「あ。ナカ、気持ちいい」
「…そう、か」
「ずっと入ってたい」
「僕は、…溶けてしまいそうだ」

そう言って赤ちんが目を閉じた。瞬きとは違って、意思を持った閉鎖らしく。3秒くらい目蓋が開かなくなったので、ちょっと嫌な予感がした。

オレと赤ちんの間に、温度差が生じてるのは分かっていた。
実際にはオレも赤ちんと何ら変わりない熱を持っている。だけど、オレは赤ちんの目を見て心理的な清涼感を得ていて。
赤ちんはそうじゃなかった。全然涼しくなれなくて、内も外も焼け焦げそうな熱でやられてる。だから赤ちんは、目を閉じることでオレから涼しさを奪って。

「…ねえ赤ちん、目、開けてよ」
「……」
「わざとしてんの?ねえ、ぶっ壊すよ?」
「……」
「赤ちん、…赤ちん!」

焦りが熱に変わってく。
さっきまで快適だった体内温度が、急速に上昇してくのが分かった。こうなると自分でも自分の欲求コントロールが効かなくなる。それなのに赤ちんは目を瞑ったまま。
「…っ、赤ちん!…動くよ?」
目が、開かない。
だけど赤ちんはこの宣告を受けて、満足そうに口端を上げ。こくんと僅かに、顎を引いて頷いた。




満身創痍になりながらもクーラーのリモコンを見つけ出し、スイッチを投入する。
室内温度は28度設定になってたけど、もうちょい下げとこう。22度。エコじゃないけど、早く冷やさないと燻製になる。
呼吸をするのも苦痛を感じる、この状況で。ゆっくりと背後を振り返れば、オレ以上にぐったりしてベッド上で伸びてる赤ちんが視界に入る。

「…赤ちん、生きてる?」
「…熱い」
「うん、良かった。…もうちょい我慢して、いま空調入れたから」

こっちに背中を向けた赤ちんのTシャツは半分以上たくし上がってて。その白いはずの肌は、なかなかに赤味がかってる。熱いんだろうな、オレもだよ。
へとへとな体を叱咤して、備え付けの冷蔵庫から水を一本取り出して。ベッドに戻って赤ちんの頬に押し付ける。急な刺激にぴくりと赤ちんの全身が震えた。
「飲める?水」
「…ああ。ありがとう」
ペットボトルのキャップを捻って開けてやる。赤ちんが身体の向きを変え、仰向けになる。目が、開いてる。だからオレはちょっとだけ余裕を取り戻し、赤ちんに差し出そうとしたペットボトルを引っ込めて自分の口に水を含ませ、口移しで赤ちんに与えることが出来た。

ごくんと赤ちんの喉が鳴る。ちょっと顎に垂れたけど、ちゃんと冷たい水が中に入ってったことを確認し、唇を離す。赤ちんの目はかろうじて開かれている。
じきにこの肌も元の温度に戻ってく。そう思いながら唇を撫でると、赤ちんはふっと目を瞑った。
「…どしたの?大丈夫?赤ちーん?」
「…大丈夫、じゃない」
「え?うそ」
「……まだ、熱い」

目を瞑ったまま赤ちんがオレの唇を舐めて来る。ほっといたら咥えられてしまった。あ、やばい、それは。こっちも火が付く。
「…ちょっと赤ちん、オレもう涼しくなりたいから、目開けてよ」
「それは僕の熱をすべて放出してからだ」
「え?あ、ちょっと、赤ち…」
「この体の内に熱を与えたのはお前だ。敦、お前が除け」

かたくなに目を閉じたまま、赤ちんがオレの手を引く。唇が自然に重なる。まずいなって、思ったけど。室温は急速に低下していってることだし、これするくらいが丁度いいかもね。
赤ちんの眼差しっていう涼しさを人質に取られたオレは、赤ちんに乗っかってもっかい指を突っ込む。たしかにそこは熱くて、溶けてて、その上ひくひく震えてる。
オレのサイズとは一致しない狭さだけど。欲しいってなら、無理にでもあげちゃうよ。
言っとくけど容赦しない。この口がオレを好きだと震えている限りは。アタマを冷やす視線をお預けにされている限り、オレは。

「赤ちん、オレ、熱ぃの苦手ー…、だから」

オレの熱はぜんぶ赤ちんの中に押し付けて。
そんでまた熱さに耐え切れなくなった赤ちんにオレのこと強請らせよう。











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