krk-text | ナノ


▼ 9




ぺたんこの胸を触っても興奮するし、パンツの中に突っ込んだ手が濡れるのにも欲情する。
この身体から発生する熱と音と匂いが、オレの頭にもある未熟な常識を破壊する。

「…なあ、黄瀬」
「…い、わなくていいっス、分かってるから」
「言わせろよ」
「……何スか」
「……挿れたい」

くの字に立てられた黄瀬の両膝に手を置き、開かせながら。自分の腕で顔を覆っている黄瀬を見上げ、素直な欲望を口にした。
交差する腕と腕の隙間から、黄瀬がこっちに視線を送る。躊躇と困惑で揺らいだ眼差し。まだ、黄瀬の中には理性が残っている。

「簡単に言うね。…恐ろしいな、若さってのは」
「関係ねーよ。今のお前見てたら、オレがいくつだろうが…したくなる」
「…そんなに、オレに興奮してんスか?」
「してる」
「……」
「ガマン出来ねぇ。頼むよ、黄瀬。…ここに」
「ッ!」
「挿れさせてくれよ」

黄瀬のカウパーで濡らした指を、開かせた足の間。穴に、押し当てる。
指の第一関節まで入れ、穴の入り口を広げるように掻き回す。黄瀬が息を飲んだ。
「か、火神っち…、ッ、ちょっと、それは…」
「…んだよ、今更。ノってきたっつっただろ?」
「火神っちをイかせんのは楽しかったけど、でも、オレ…」
「怖ぇの?」
「いや…っ」
この期に及んでまだ犯罪がどーのとか、言い出すものなら無理やりする。
そう決意しながら指を動かし。黄瀬の顔を仰げば、少し泣きそうな顔をしていた。
「…んだよ、そのツラは」
「だ、だって…、その、なんか…、」
「何?」
さっきまでは割と余裕そうだった。その黄瀬が、発言を躊躇って視線をぐるぐる泳がせて。
漸く口にした声は、蚊の鳴くようなボリュームで。
「…結構、体、まずいことに、…なってんスよ」
「……は?」
「あ、アンタに触られて、したらスゲェ、ドキドキしてきて。さっきからオレ、異様なくらいに興奮してんス。…これ、もしかしたら、……洒落になんないかも」
「……」

黄瀬の身体が熱を持ち、下半身に垂れてるモノはおっ勃っていて。白い肌はすべて赤く染まっているし、脈の速さが異常なことは触っているオレには丸分かりだ。
だけどオレには黄瀬の頭の中までは覗けない。何を考え、瞳を潤ませオレを見詰めてんのか。どういうつもりで、こんなことを言い出すのか。

「オレ今、酒も入ってるし。…セーブ出来る気が、全然しない。ねえ、火神っち、オレ、こんななるの初めてなんスよ?…これ以上に気持ちいいこと、されちゃったら…」
「うるせーな、オレも…、初めてだよッ」
「ひァッ?!」

オレには黄瀬の考えを読むことは出来ない。
ただ、ひとつだけ分かったことがある。
黄瀬にとってこれは嫌な行為ではない。むしろその逆だ。こいつは、こんなにも。

ぐっと指を勢い良く突き入れて確信する。
こんな良い声で鳴かれておさめられる男がどこにいる。いねぇよ、そんな奴。精神修行じゃねぇんだ、大概にしてくれ。
「か、火神っち…ッ」
「…力抜いてろ。……気持ち良くなんの、嫌じゃねぇだろ?」
「それ、は…」
「いいから。オレに任せて、ぜんぶ委ねちまえ」
「…っ」
広げて解して中を馴らしながら。黄瀬の目を見て告げると、瞬いた目元から涙をこぼして。
「…ぇよ、」
「は?」
ぼそりと何か、呟いた。その声を拾い直すために一度手を止め耳を澄ませる。
この静かな室内で。虫の息状態の黄瀬が、細々と呟いたのは。

「…マセガキ。このオレをどーにかしよーなんて、…10年早ぇよ」

この状況でどこまでも煽り上手な、年上のこの男は。
どうやら本気で、オレの理性をぶっ壊しに来ているらしい。




「んァ?!…や、火神…ッ、そこ、だめっ、だ…っ、ぁ、はっ、ぁあッ!?」
「…ば、か、…ッ、締めんなっ!」
「んなこと、言ったってぇ…、ッ、あっ、あっ、あ、また、…ッや、ぁあっ!」
「く…ッ、」

黄瀬の中は、当然だがむちゃくちゃ狭い。何とか挿入を果たし、動き始めたものの、あまりにもぎゅうぎゅう締め付けてくるもんだからこっちは一度引き抜いた際に一回絞り取られた。
それでも萎えないブツを再度突っ込んで抜き差しを行ったところ、それまで苦しげだった黄瀬が急に派手に喘ぎ始めたから、こっちも止めるに止められなくなってくる。
今度は奥にブッ刺したまま、イってしまった。

「は…ッ、も、…何回、イくつもりっスかぁ…?]
「う、うるせ…っ、お前が急に締めるから…ッ」
「…いーとこ、当たってたんスよ、さっきまで…。…ねぇ、まだイけそ?」
「……ちょっと待て、……」
「頑張って勃ててくれよ。…オレはまだ、ビンビンっスよ?」
へらりと笑う黄瀬の顔から、下へと視線をズラす。言うとおり、黄瀬の下半身はまだまだ元気だ。それを見てこっちの下腹部にも熱が込み上げてくる。…男の下半身がこんだけエロく思えたのは、初めてだ。
「…ッ!!な、何、考えてんスか?…またおっきくなった」
「うるせーな!分かって言ってんだろ!?」
「スゴいっスねー、火神っちのムスコは。何でこんな短時間で復活すんの。オレが10代の頃だって、こんな、ひゃ…ッ?!」
「調子こいてベラベラ喋ってっと、痛い目見るぜ?」
完全復活した下半身を軽く引きながら、片手を黄瀬の腹に添える。そのままチンコを掴んでやれば、目を見開いて悲鳴を上げた。
「ちょ、まった…ッ、い、いま、さわ…、ァ…ッ?!」
「…お前も、一回イけよ。ほら、」
「や…ッ、い、いいっス、オレは、ぁ、あっ、やだっ、いいっ…!」
ガシガシ強めに擦り上げながら腰を動かす。二回も出したお陰でか、滑りはかなり良くなっている。そしてチンコに直接的な刺激を与えれば、さすがの黄瀬もたまらないようだ。
「い、…ッ、イっちゃう、…から、…まって、ぁ、ッ、んんー…ッ!!」
「…黄瀬、」
シーツに後頭部を擦りつけながら首を振り、目を閉じて快楽を訴える黄瀬の姿にまんまと引っ掛かったオレは空いている方の手で黄瀬の腕を掴み、ぐいと引っ張り上げた。繋がった部分からぐちゃりと盛大な音が漏れる。引き上げた勢いで、黄瀬の唇を塞いだ。
「……ッ、っ!!」
「く、…ッ、すっげ…!」
イく時の声はオレの口の中で発散された。塞がっていなければ相当デカい声で叫んでいたかも知れない。そう思いながらオレは一際強く締め付けて来る黄瀬の内部の攻撃を受け止め。また、中で出してしまった。
「う、…ふ、ぅ…」
「…おい、大丈夫…か?」
「…なわけ、ない、っス…、はッ、…火神っち、…ごめん、一回抜いて…」
「え?あ、…ワリィ!」
さすがに立て続けに三回も中出しされれば負担も半端ないだろう。慌てて黄瀬から離れようと腰を揺するが、その途端黄瀬は「あッ」と短く喘いでオレの肩に圧し掛かってきた。
「な、何だよ…?!」
「…や、やっぱ、まだ、動かないで…、いま、すっげ、敏感になってる…かも、」
「……」
「ちょっと休んでから抜い、…か、火神っち…?え?何…ッ?!」

下手な自己申告のせいで、オレの下半身はまた燃え上がる。
しかもこんなこと、耳元で吐息混じりに囁かれてみろ。なあ、お前バカだよな?

「…マジ勘弁してよ…、なんでまたデカくするんスか…」
「…お前のせいだろ」
「オレ、無理っス…、ほんと、もう、疲れたし、…?!や、ちょっ、やだ、待っ…んぅッ」
両手で黄瀬の腰を掴み、下から突き上げる。悲鳴じみた拒絶の声が黄瀬の口から漏れる。当然口で塞いだ。
イってすぐには勃たねぇか。しょーがねぇな、お前、オッサンだし。
だが生憎、こっちはまだ10代の若者だ。知ってんだろ。覚悟しろ。

「ふ…、っ、は、ぁ…、火神っち、…オレ…」
「…んだよ?」
「…このまま、アンタに、ヤり殺されそっス…」

心底しんどそうに呟いた黄瀬に笑いかけ、言ってやる。

「そしたらオレが一生お前の面倒見てやるよ」

10年だろうが20年だろうが。
オレはお前よりも未来が長い。だから、こんなことも余裕で言える。
それを聞いた黄瀬は背中を震わせ笑いながら、オレの肩に顎を乗せてきた。

「…言ったはずっスよ。んなマセたこと言うのは10年早いって。…ま、アンタが10年後もオレのこと好きでいてくれんなら、それ、もっかい言ってみろよ。…喜んでくれてやるから」

10年と言う月日が長いのか短いのか、オレにはいまいちピンとこない。
それでも。あと10年待たなければ黄瀬がオレのモノにはならないと言うのなら。この約束は、受け付けないわけにはいかない。
同時にオレはこいつがオレから離れていかない様に、それなりの努力をしていかなければならない。
10年後。黄瀬が惚れ込む男に成長するために。

ひとまず、今夜は。

「…もう充分休んだだろ。オラ、もっかいヤるぞ」
「…容赦ないっスね、もぉ充分味わったんで、勘弁してくんないっスか?」
「まだまだ足んねぇよ。ヘバってんじゃねーぞ?」
「…先は長いってのに、せっかちっスねー…、…ッ、あぅ!」

こいつにガキと侮れないために。
この体には、オレが実に健全な男だと言うことを充分に叩き込んで置こうと思う。




翌朝、目を醒ましたオレの視界に飛びこんできたのは悲鳴をあげたくなるようなモノだった。
「…ッッ!!」
「しっ!静かにしろ、大我」
黄瀬くんが起きるだろ、と。ひそやかに言われてオレは腕に重みを感じた。
「……」
オレがいま大事に抱え込んでいるのは、間違いなく。黄瀬の頭だ。
そして、黄瀬の頭を抱えているオレを、オレたちを見下ろしているのは。

「…勝手に入ってくんじゃねーよ、クソ親父」
「ここはオレの家だぜ?」
「オレの部屋だ!」
「家賃払ってるわけでもねぇくせに、偉そうなコト言ってんじゃねーよ、クソガキ。…で?大我。これはどういうことだ?」
「…は?…いや、お前、…こ、これは…っ」

布団は被っている。それでも、かすかな記憶によればオレたちは服を着る間もなく寝落ちた。少なくともオレのほうは真っ裸であることは、シーツに触れた皮膚の感覚で分かる。
オレよりも先に気を失った黄瀬も、おそらくは。そう考え、オレは黄瀬の頭頂部に視線を置いて思考を停止させる。
…これは、言い訳のきかない状況だ。

と思ったところではっとする。
昨晩、オレにこうするようけしかけたのは誰だったか。黄瀬と二人きりになるチャンスを与え、実の息子にゴムまで持たせて出て行ったのは。

「…お、お前が…言ったんだろ…」
「ああ、しくじんなっつったよ。…だから聞いてんだ。大我、これは何だ?」
「は?……ッ!!」

これ、と言われて視線を向ける。そして親父が摘んだ四角いビニール袋を目にしたオレは、再び悲鳴を喉の奥で噛み殺した。
「そ、それは…」
「…見たところ、ヤることはヤったようだからな。…敢えて聞くぜ。…ナマでしたな?」
真顔で問われ、顎を引き。しばらく回答を躊躇った後、小さく頷いた。
「……忘れてた」
「バカじゃねーのか、お前は…。何回したんだよ」
「しっ、…知らねぇよ、覚えてねぇ。…ぶっ飛ぶくらい、だ」
「……」
「しょ、しょうがねぇだろ?!オレだって、ギリギリの状態だったんだよ!なのに、こいつが…っ」
「ん…、火神っち…?起きたんスかぁ…?」
「!!」

もぞりと腕の中で黄瀬の頭が動き出し、間延びする寝惚け声がオレの息を止めた。
まずい。今はまずい。まだ目を開けるな、と心底願いながら黄瀬の後頭部に手を当て、ぐっと首元へ引き寄せる。
「うぐっ!?な、何スか…?!苦し…っ」
「い、いいから、お前はまだ寝てろ!」
「意味わかんないっス!何で…」
「おはよう、黄瀬くん」
「……へ?……え、その声…」

オレの必死の阻止もむなしく、親父はあっさりと自分の存在を黄瀬に知らせる。当然、オレに圧迫されたまま暴れる黄瀬の動きがぴたりと停止した。

気まずい沈黙が流れる。
親父の視線が、痛い。

「き、黄瀬…、あのな?」
「…だ、大丈夫っス、火神っち、…手、離して」
「いや、でも、」
「大人の責任、果たすっスから」

やけに落ち着いた声でそう言われ、おそるおそる手を離す。すると黄瀬は片手を使ってゆっくりと身を起こし。俯いたまま、オレの横に正座した。
「黄瀬…?」
「…火神サン。オレ、言い訳するつもりはないっス。…あなたの大切な息子サンに手を出した事実は、認めます」
妙な空気がこの場を支配している。
片肘をつき、身を起こす。その瞬間黄瀬はがばっと上体を前方に倒し、シーツに額をくっつけて言った。

「だけどどうか、信じてください。オレは、大我クンのことを、…絶対に、大切にします」
「き、黄瀬!お前、何言ってんだ…?!」

何かがおかしい。この違和感の正体が分からないまま、親父に土下座をする黄瀬の身を起こそうと肩へ手を伸ばす。触れる直前、親父は言った。

「…顔を上げてくれ、黄瀬くん。オレはべつに、君を叱りも殴りもしない。その逆だ」
「…親父?お前まで何を…」

妙にシリアスな声でそう言った後、親父は床に膝をつき、黄瀬と同じように頭を下げた。

「不肖の息子だが、…大我を、よろしく頼む」
「火が…、…っ、お義父さん!!」
「?!」


黄瀬が親父の呼び方を変更した。その時、オレは違和感の正体に気付くことになる。
手を出したのはオレの方だ。出された方が相手の親に頭を下げるのは、いくら年上とはいえ違うだろ。
だが完全に雰囲気に浸っているバカ大人二人にツッコミを入れる余力は、今のオレにはなく。

いつか、オレも黄瀬の両親にこうして頭を下げに行かねぇとな、と。
割と真剣に、考えるだけでせいいっぱいだった。










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