ゼロ距離キス魔


ベルジャン短文


「んや、ぁ……は、ふ……」
ごく普通のビジネスホテルの一室。シングルベッドが二台あって、一台に二人分の人影がある。
「えろ、おやじ……出しすぎ、だっての……ひぁ」
横に二人並んで横になって、ジャンは息のととのわないままに悪態をついた。鈍く痛む腰にやさしい体勢を探して身を捩った途端、内腿をつぅっとつたったぬるつく感触に裏返った声が出る。びくっと震えて天使の羽根の名残のような肩甲骨を揺らした。くすりと笑ったベルナルドの吐息で揺れた髪に鎖骨を擽られて、脱力した身体をまた強張らせる。宥めるように額に、鼻の頭に、目頭に、あちらこちらに次々と唇を落とされる。
「まぁ……確かに。否定はしないよ。ハニーが長く出張してたのがいけない。ジャンだっていっぱい出しただろ?」
ラグトリフだけを連れていったシカゴでの会議が終わりようやくデイバンに帰ってきて、後片付けを終えてようやく手に入れたふたりだけでの時間だ。ベルナルドは汗で額に張り付いた前髪を労るように掻き上げながら言った。
「そりゃまぁ……って、電話でも、その、しただろ!」
自分の乱れ様を思い出して納得しそうになってから突っ込む。
「あれはほら、ジャンが変態に見せつけられて変態にされてたんだからノーカウントだろ?」
「その変態はどちら様でした、っけ……っン、ぁ……」
折角落ち着いてきた息で軽口を叩いていると、ベルナルドがおもむろに顔を近付けてきた。はっとするくらいの色気に見とれている隙に、唇で奪われる。
「この、へんた……っんむ……ぢゅ……」
「ん、ぅ……ジャン、ジャン……は、愛してる……」
するりと口腔に入り込んできた舌に舌を絡め取られて、吸い上げられて水音がじんっと響いた。角度を変えながら何度も何度も唇を重ね、合間に数え切れないほど名前を呼ばれると頭がふわふわしてくる。ベルナルドの甘ったるいキスに溺れていると、鼻の頭にこつん、と固いものがあたった。
「ちょ、やだ……っ」
「んー? 嘘を言うな。好きだろ? こういうの」
「ちがう、って……」
身を捩ってベルナルドから逃げながら胸を押して少し距離をとる。ベルナルドが渋い顔をした。
「どうしたんだい」
「キス、じゃなくて眼鏡……」
ベルナルドの眼鏡のつるをつかんで、無理矢理はずしてしまう。眼鏡をベッドサイドのテーブルに放って、障害物のなくなったベルナルドの頬を手のひらで覆い、唇を啄むだけのキスをした。
「これ、だーめ。眼鏡、邪魔だって……」
ゼロ距離で見るベルナルドの目尻はすらりと伸びていて、冷静さと獣の熱を併せ持った瞳にどくんと鼓動が跳ねた。顔が熱い。火が出る。
「……それは反則だろ、ジャン。かわいすぎる」
「かわい、ってなに……んむぅ」
今度はベルナルドから仕掛けてきて言葉を止められた。
「電気、つけていいかい」
なにやらがさごそしていたベルナルドは気付くとまた眼鏡をかけていて。
「……近い距離ですんのはそんなに嫌かよ」
少し拗ねて、唇を尖らせる。
「いや、そういうかわいいジャンの顔をはっきり見て脳に焼き付けないといけないからね。あ、それとも写真を撮らせて……」
「あほ!」
エロモード全開のベルナルドを一瞬でも格好良いと思った俺があほだった。



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