conan | ナノ

空に浮かぶ赤い三つの目。
赤と黒に塗りつぶされた景色に光は感じられない。
動かない体、気付けば金の蜘蛛の巣に絡みとられ生まれる焦り。
夢だ夢だと頭ではわかるものの震える指。


お前の悪夢の中で


繰り返されるそのフレーズに耳を舐められるような感覚。
低いその声、離れない言葉。
脳まで響くようなそれに視界が白く濁る。

息をすることから全部、わからなくなって―――




「、くろばくん」

は、と深い霧の掛かった映像から浮かび上がる思考。ぱちりと限界まで開いた瞼は痺れている。
視界いっぱいに写る整った顔は心配そうな顔をして快斗を覗きこんでいた。

「はく、ば」
「そうです、大丈夫ですか黒羽くん」

甘い声は先ほどまでの不快感を全部拭い去ってくれて。頭をふわふわと撫でる大きな手にほっと息を吐いた。
目をとじて深呼吸。
ひとつひとつと数えるように押し出して、ばくばくと煩い心臓を宥めた。

懐かしい夢。
突然現れた謎の男に掻き乱されたあの嫌な記憶。
もう忘れたと思っていたのに突然来るものだからたまったものじゃない。
ゆっくり瞼を上げて若干潤んでいる視界の縁に苦笑しながら、頭から頬に下りてきた形の良い手に自分のそれを合わせて擦り寄る。

「……白馬」
「はい」

一言だけの柔らかい返事。きっとこの男は快斗がなにか言うまで、自分からは何も言わず撫で続けるのだろう。中途半端な優しさに包まれ、踏み込まない彼に嬉しさと少しの寂しさを感じる。
温かな手に無邪気な猫のように頬を当て指で遊ぶ。
節張った、形の良い白い指。紳士なこの男は顔に似合わず力仕事なんかもするから所々かたく、それが心地いい。

「夢みた」

黙って快斗の言葉を促す。滅多に起こすことのしない彼があんな心配そうにしていたのだから、恐らく悪夢を見たことはわかっているのだろう。
じんわりと浮かんだ汗をすかさず拭くその気障っぷりは健在で、あの頃と違うのは丸くなった性格くらいかと思う。
高校生の時から、まっすぐ大人の男として成長したがその甘いマスクもエスコートも各段に上手くなり、男としての色気もでて益々かっこいい。
伏せ目がちの目を見ていると今更ながら自分の体勢に気付いた。
全く違和感がなかったが、下から彼を見上げているこの状況。片側と頭の下にある温もりはどう考えても膝枕というやつだ。
この野郎と思いつつ快斗は気恥ずかしげに体を起こす。いたたまれない。
恋人になって数年経つというのに、こういった接触には一生慣れる気がしない。
少し残念そうな顔を見なかったことにして、ソファの隣に改めて腰かける。途端に腰に回る腕に、それくらいはいいかと思ってしまったくらい彼に浸食されていると感じた。

「スパイダーの」
「ああ……あの三流マジシャンですね」

君には遠く及ばない、そう言い快斗の髪を弄る探に歯を食いしばって顔が赤くなるのを抑える。癖みたいなものか、彼はこの癖っ毛をしょっちゅう触る。
さすがに人前で触るのはやめさせたが、あのさびしそうな子犬のような顔をされるとどうしても厳しく言えず、家の中での二人の距離はほぼ0のことが多い。
たまに遊びに来る新一や服部は呆れつつも気にせず二人を見ているから誰も彼に注意する人はいないのだ。
これはこれで離れるとオレがさみしいんだけど、とうっかり考えてしまい、熱くなる頬を見せないようにとん、と彼に凭れかかった。
当たり前のように肩を抱く探があたたかい。

「……」
「黒羽くん?」

もう夢なんてどうでもよくなってしまった。見た映像がかすれるくらい、彼の顔を見続けてたらきっとまた忘れる。いや、絶対忘れられる。
中毒、と口の中で呟いてから意外と厚い胸に体重をかけて、そういえばと言いなおす。

「あのときもお前が助けてくれたんだよな」
「ふむ……そうですね、あれは」

自然と甘えた口調になった快斗に対して、探は支える手とは逆の手を顎に添え少し考える。
安心感でか子供のようにとろんとした目を探に向けると、すぐ快斗のほうを向き頭を撫でる。

「あれは、君のことを彼が独占するから」
「は?」
「一瞬でもスパイダーの幻影に飲まれ…僕を見なかったから」

だから助けたというと、少し違うかな。
ちゅ、と快斗のふわふわした髪に口付け満足そうに微笑む。
蒸気がのぼるくらい一気に体温が上がった気がした快斗は意味のない唸り声をあげながらすりすりと探に抱き付く。
恥ずかしいくらいどろどろに甘やかしてくる探相手だとポーカーフェイスはどこかに消え熱ばかりが顔に出てしまう。
小さく悪態付きながらもちらりと目線を上げ彼を見ると、わかってはいたがやはり目を細め愛しいとばかりに笑う探がじっと見ていて。

「お前、恥ずかしくねえの」
「どうして?」
「や……、その、そういうことばっか言うし」

きょとん、と本当に不思議そうに訊き返すものだから快斗のほうが困ってしまう。
熱をごまかすように少し俯いて顔を振る快斗にいじわるをしたくなるが我慢して。
両手でしっかり抱きしめて、頭を撫でながらすっぽりはまる体を抱きしめる。

「君のそんな顔が見れるなら、いくらでも囁くよ」

顔を真っ赤にしながらも掴んだ服を離さない彼が、僕はとても愛しい。





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