02






「神田がこどもの世話してるなんて、本当に愉快ですよね」

「俺は本当に不愉快だ」



ぱたぱたとモヤシのゴーレムが頭上を旋回する。
なまえはきらきらと目を輝かせ椅子の上に立ち上がるとそれを取ろうと跳び跳ねた。
そして尻尾を掴むとゴーレムが餓鬼の玩具と化す。



「ぎゃあ!!ティムをいじめないで下さいよなまえ」

『ティムって言うんだー。でも豆の方がぜったい似合うよっ』

「なんでさ?」



ゴーレムが餓鬼の隙を見つけると命からがらその魔の手から逃れ、そいつにとってオアシスといえるモヤシの頭に降り立った。



『もやしの頭の上に黄色いのが乗っかるからー』

「豆もやしってことですか。こどもって残酷ですよね、シメてやろうか」



よしなまえ、いいぞもっとやれ。
俺はにやにやと腹の内でモヤシを嘲笑っていたが、暫くするとなまえが大きな欠伸をひとつして、涙が溜まった目を擦りながら、



『かんだー眠たいよぅ』



時刻は夜7時。日は暮れているもののまだまだ眠くなりそうに無い。



「じゃあリナリーとかに頼んで風呂入れてもらってなまえを先に寝かしたらどうさ?」

「そうだな」



糞兎の案をのみ俺はリナリーに餓鬼のお守りを頼むもなまえはまた抱っこちゃんになり剥がそうにも離れない。しまいには歯で噛みついてきやがった。

流石にリナリーも苦笑いし、「なまえちゃんおいで?」と声を掛けるも頑なにその小さな完全に生えきっていない不揃いな歯が俺の腕を捕らえて離さない。

はあ、と溜め息を漏らし俺は致し方無く餓鬼を風呂に入れることにした。

で。



「なんでお前らもいるんだよ」

「ユウひとりじゃあ心配だしさ」

「いやあ、神田が世話してるなんて本当愉快だなあって」

「じゃあお前が見ろよモヤシ!!」



風呂くらい落ち着いて入らせろよ阿呆共が。
しかもなんなんだこの餓鬼は。なんで自分の服のボタンすら外せないんだよ。



『かんだー開けて?』

「チッ、ほらこっち向け」



んでどうしてこんなにがさがさして落ち着かないんだよ。30秒もかからない筈なのになんでじっとしてらんねえんだよ。



「そしてロリという禁忌に目覚めてしまう神田」

「黙れよ」



とりあえずなまえを連れて風呂場に行く。
もくもくと白い湯気が立っており、時刻もまだ早いからか貸し切り湯となっていた。



『わーい広ーい!!』



なまえは一気に興奮状態になり走り出した瞬間、俺はここの床が恐ろしく滑りやすいことを思い出し注意しようとするが時既に遅し、餓鬼は見事な腹這いでの滑りを魅せていた。

目の前は沸き立ての温泉がひたひたの浴槽。高さが無い為確実にそのままぼちゃんと突っ込んでしてしまう。



『うわーん!』

「待てよ阿呆餓鬼が!」

「アレンそっち行ったさ!」

「よし!確保しました!」



湯船ぎりぎりの所でアレンが餓鬼を抱きあげる。
俺達の安堵の溜め息が重なった。

とりあえず俺より先に餓鬼を洗い済まそうと髪を洗ってやる。
細くやわらかい髪。こども独特の綺麗さがある。

目に入るのが嫌なのか餓鬼は天井を仰いでその大きな瞳をぎゅっと皺が出来るまで瞑っていた。



『かんだ痛いよー』

「我慢しろ」

『入るよぅ』

「力抜けよ」

「端から聞いたら完全にユウがなまえにやらしいことしてるみたいさ」

「やはりロリという禁忌を犯す神田」

「だから黙れ」



こいつらは確実に頭が沸いてやがる、絶対に。
なにがなんでもこいつらに餓鬼を預けてはいけない気がする。あ、別に俺は取分け餓鬼のことを心配してる訳じゃ無いからな。

なまえが怖がるものだからなるべく顔にかからないように上を仰がせたまま片手で目を隠し、髪だけにシャワーをかけてやればモヤシが、



「やっだー神田優しい惚れますー。ふっふー」

「うぜえ」



ふっふーってなんだよふっふーって。六幻が手元に有ったら絶対斬ってやるのに。



「ほら洗ったぞ、100数えて浸かっとけ。それとモヤシに特攻してこい」

『隊長!あいあいさー!』



なまえは『覚悟ー!』と叫ぶとモヤシにダイブしていった。
宇宙人の世界で苦しめ。


俺はその間に自分の汚れを落とす。
後ろで嬉々とした声とばしゃばしゃとあからさまに湯の量が減っている音がする。

黙って背中を洗うとばしゃりと湯がかかった。もう一度洗っても洗っても後ろから湯がかかった。

じろりと睨むと阿呆面三人がにやにや。
咄嗟に握ったシャンプーとリンスの容器をそれぞれ糞兎とモヤシのムカつく顔面を的にして投げれば見事ヒット。



「痛い!酷いさっ!!こんなんこどもの前でしたら教育に悪いさっ」

「しかも背中にかけたの全部なまえですからね」

『隊長がご立腹のようにございます!!全員たいさーん!!』

「おい餓鬼ちょっと来い」



わたわたと走りにくそうに湯の中で逃げまどう餓鬼を掴もうとすればあいつはすっと兎の後ろに隠れた。



「なまえこんなに怖がってるさー。今夜は俺の部屋で寝るさ?」

『うーん……そうする』

「(そうするのかよ!!)ばっ!」

「ば?何ですか?」

「な、なんもねえよ」



本当に大丈夫なのか少し不安になる。……いや、そんなに心配してねえからな。ほんの、ほんのちょっとだからな。



『じゃーかんだ寂しくない?』

「阿呆か」



餓鬼のしっとりと冷たい頭をぐりぐりと撫でる。
なまえは向日葵のような明るい笑顔を向けて『ありがとー』とこぼした。



「早く。出るぞ」

『はーい』



餓鬼を温泉から引っ張りあげ浴室を後にすれば、モヤシ達ももう逆上せる限界か、後ろについた。
餓鬼にバスタオルを渡せば不器用に拭き髪を乾かしている。



『かんだーボタン閉めてー』

「もう少し俺にそのやわらかい四肢を魅せてくれよ」

「おいモヤシ!!俺が言ったみたいなタイミングで言うんじゃねえよ!!」

「そしてロリという新たな扉を開く神田」

「もう黙れよ頼むから」



こいつらに預けて本当に大丈夫なのか?



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