03


「まあまあ!そんな心配するなって!俺がしっかりと面倒みるさ」

「心配するかよ」

『かんだー寂しくなっても泣かないでねー』

「……」



最初は餓鬼に『かんだもー』などと誘われたものの流石に男の部屋で川の字になって就寝したくは無い。
餓鬼はしょんぼりとした顔をしたものの兎によって引き取られていった。



『かんだーおやすみなさいっ』

「ああ」



小さな手を振る餓鬼を見送り、モヤシとも別れ俺は自室へ戻る。

ぱたりと扉を閉めれば沈黙が鼓膜を破ってしまいそうなくらい静かな空気。
自室が、教団が、こんなに静かだったのかと僅かに驚愕した。しかし鬱陶しいことにまだあの子供独特キンキン声が未だに脳を左右へと暴れている。

はあと溜め息がこぼれ餓鬼が散々跳び跳ね乱したベッドのシーツを伸ばし横になる。ぼさり、と俺の動きにより擦れた布の音しかしない。


ふとひとりに為った瞬間色々な考えが脳裏を過る。

餓鬼は本当に此処へ来て良かったのだろうか。
母がAKUMAで俺によって殺されひとり残され途方に暮れて。
この、殺した加害者について来てしまって。
なんであいつはこんな憎むべき相手にあんな必死に着いて来ようとしたのか。あの時俺はあの餓鬼もAKUMAかノアの仲間かなんかと思った。しかし餓鬼はそんな素振りひとつ見せず異常な鬱陶しさを発揮し俺に付きまとってきた。
敵では無いものの餓鬼という種族の宇宙人は厄介で仕方ない。

だから別にあんな兎に預けてどうなっても知らねえからな。俺のところに来ない餓鬼が悪いんだからな。
あ、こんな言い方してるが取分けあいつが心配という訳では無い。重要なことだから二回言ったんだ。
しかしあの頭の沸いた糞兎こそ禁忌を犯していないかが不安だ。
もしそんなことしてたら六幻で叩っ斬る。あ、いや別にそんなんじゃねえからな。



はたと時刻を確認すればもう9時をまわっていた。
なんで俺があんな餓鬼の考察の為にこんなに時間を割かないといけねえんだ。
再び沈黙の中に溜め息をこぼし俺は床に着いた。


……どのくらいの時間が経ったのだろうか、なかなか寝付けないながらも無理に瞳を閉じていればかちゃりとドアノブのまわる音。
体を起こし確認すれば背伸びして扉を閉める餓鬼が居た。



「何してんだよ」

『ラビ寝かしてきたのー、次はかんだの番っ』



にこりと顔を真っ赤にし大きな笑顔を向け、ぱたぱたと此方へ走ってきて再びベッドにダイブ。
もぞもぞと赤い指先をのばしシーツに入ってきた。



『ろ、廊下寒かった……!』

「当たり前だろ。しかも寝かしてきたって」

『なまえが寝んねーんってしてあげてきたのー。それと一緒に遊んでたら寝ちゃった』



そりゃこの餓鬼のあの無意味な自分発信ラジオや謎のハイテンションを流さずにずっと付き合っていれば小宇宙(コスモ)が見える程疲れるに決まっている。
兎もご苦労だな、俺は今死んでいるであろう兎に嘲笑を送った。



『……もー眠たい』

「早く寝ろ」



眠るくらいはそっとしておいてほしいくらいだがこんな寒い時期に餓鬼を放っぽりだすことは出来そうになかった。というかもう既に俺のベッドで規則正しい寝息をあげていた。やはり忙しい奴。
俺には到底理解出来そうに無い生物だ。
こいつは今どんなことを思い考えながら俺の隣にいるのだろう。どんな夢を見ているのだろう。

餓鬼の頬をふにふにとつつくとそこに似つかわない皺を眉間に寄せ、俺の名前を呼んだ。
餓鬼という生き物はつくづく不思議だ。
その小さな生き物はありえないくらいやわらかく、冷たいベッドをすぐに温めていった。これが幼児体温というやつなのか。



『……うーん』

「痛てぇ!!」



餓鬼が寝返りを打った瞬間そのやわらかい足が俺の頬に入った。
なんでこんな単時間且つ小スペースで逆さま向いてるんだよ。窓から寒空の広がる外へ放ってやろうかこんの餓鬼めが。



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