03

結局神田くんは気が済むまで某有名SL映画の真似を一通りして、死んだように床で眠った。

お風呂から出たら、六幻を抱き抱えて転がってるジェントルマンを叩き起こす。
お前は酒豪か。



『かんだー、風邪ひくよ、ぱっつん凍るよー』

「……」



起きないので、無理矢理ベッドに寝かす。
すっごい重たい。筋肉!

ひとつのベッドに寝るのは気が引けたが寒くてしょうがない、私はゆっくりと眠ることにした。











「……なまえ、起きて」

『……ん、』



うっすら目を開けると、神田が上半身だけ起こしてなまえを呼びかけていた。



『まだ夜じゃんか…』



窓の外はまだ暗く、部屋の中でも吐いた息が白く消える。冷たい空気が頬を突っ張らせる。



「なんか外が賑やかだ、見にいこう」



神田くんが神妙な面持ちで呟き、髪を結い直して外へと急ぎ足で出た。

宿を出れば向かいの通りが所々明るく照らし夜を裂く。

やばいかもしれない、走って向かえば案の定AKUMAが暴れていた。

なんでだよー、しかも結構な量がわりゃわりゃと。
それを見た神田くんが頭を抱え体を反らしながら、



「うわああ!怖いっ」

『さっきまであんなにイケメンだったのにどうした!?』

「町内のもめ事かと思った」

『それじゃあ私たちの出る幕じゃないし!』



神田くんは今時の喧嘩はすごいんだぞ、と呟いた。

お前昔の記憶無いだろ。
何そういう結構どうでもいいこと覚えているのさ。
だいたいこの賑やかさで近所喧嘩だったらもう戦争の域だよね。



「今こそ、俺と六幻のショータイムだ!」



神田くんは目を輝かせ六幻を取り出した。
ショータイムっていうほど出来ないじゃん。
ライトセーバーくらいしかネタないじゃん。

神田くんは無理矢理抜刀し、私もイノセンスを発動させAKUMAに向かっていった。

倒しても倒しても終わらない戦いの狭間に神田を見やれば、



「来るなよーっ!!ひゃぁー」



と逃げ腰になりながらもそれなりに敵を倒していた。
頑張ってるじゃないかジェントルマン!!



永い夜もやがては明ける。
日が登り明るくなった頃には建物は半壊してしまったがAKUMAは片付いた。

ふたりで息を切らしながら道路に倒れ込む。



「し…死ぬかと思った…」

『……生きてて良かった』



今回分かったけどやっぱり、さっきは偶然Lv.2以上はいなかったが、次にもしこのふたりでノアやもっと強いAKUMAに出会ってしまったら確実に死んじゃう。

頭は回るのに指ひとつ動かない。息をするのもやっとだ。
この後一時間くらいふたりで道の真ん中で屍になったのちにふいに神田が立ち上がった。



「なんか俺傷治った」

『えぇ!…あ、そっか』



そうだ、神田くんは梵字の所為で傷の治りが早かったんだ。
ぼんやりとした意識で考えた。



「なんか俺すげぇ!!」



もりもりとラジオ体操しだした。
何してんだよ、無駄な体力使うなよ。

そんな私の考えと裏腹で今の神田くんは、「いっち、にー!」とやけに楽しそうに朝焼けに浴びながら体操している。夏休みの小学生に戻れ。



「……よし!」



深呼吸し終えると神田は鋭い眼光を現し私に一言かけると急に私をお姫様抱っこしだした。



『…なっ!そ、そんな恥ずかしいことしなくていいよ!おんぶ、おんぶで!!』

「…」



整った顔がすぐそこにある。
ここからみた神田くんは、昔常時みた野生神田そのものだった。

しかしふっと考える。



『……神田さあ、さっきの体操ってまさか』

「なまえ何トンあるのか分からないから」

『うん君は死んだほうがいいかもしれない』



やっぱり!
さっきのあのへっぴり腰になるほどびびったAKUMA戦より私を担ぐほうが辛いと思ったんか!!
ああそうか!!



「嘘、ほんと」

『どっち!?』

「嘘本当!」



もー、分からない!
ただ分かるのは紳士神田くんがその両手の中にある私をまるで壊れもののように優しく運んでいた、ということだけ。




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