ありあわせ
お風呂に入ってるときも、
眠るときも。
いつも貴方のことばかりで。

綺麗な笑顔を私に向けて、夢の世界へといざなう。

私の頭の中はいつも貴方ばかり、な、の、にー!!




『ちょっと!あれんんんんんん!!!』

「もーなんですか、うるさいなぁ」



なんなのなんなの!
せっかくの休日なのに、アレンたらずっとグルメ雑誌ばっかり!!切腹しろ!



『しかも[世界の石焼ビビンバ特集]って』

「見て下さいよなまえ!すごい美味しそうですよ」



にへらー、と可愛い笑顔をこちらへ向けた。
にへらー、可愛いなあアレン…じゃない!今はアレンに癒されるんじゃない!
私は自分のだらしない頬にぺちん、と一喝いれた。



『一緒にいるんだからさぁ、なんかかまって!』

「じゃあ一緒に見ましょうよ!」


…なんだこいつ。
もうだめかもしれない、私のゆるゆるゴム性の堪忍袋の緒が弾けちゃうかもしれない。
いっそ石焼ビビンバになれ。石焼の端で焦げたしなしなのモヤシのナムルにでもなれ。



『もういいよしなしなむるー!!』

「なんですかそのしなしなむるって!」

『石焼の端で焦げとけばよいわ!もやしーっ!!』



捨てセリフをアレンに突き刺し私は部屋から脱兎した。

ちくしょー!
やっぱり私だけだったんだ、好きなのは。
確かに私から告白したさ!
でもアレン優しいから断れなかったの?
そんなことならいっそずっぱりと斬り捨てられたほうがマシだ。
もし本当にそうだったら切腹しろ。

もやもやと切腹コールが頭に回りながら私は気付けば談話室に居た。
背中にざくざくと視線が突き刺さった。
振り返れば。



『あ…ラビ』

「さっきの切腹コールなにさ?めちゃくちゃ怖かった!!」



気付けば口から漏れていたらしい。ああもう歳というやつか。早い。



「いや違うだろ」

『人の脳内見るんじゃないよ、趣味が悪いなぁ』

「だから口に出てるって!」



ラビはにこり、と笑い自分の横のソファの空いたスペースをぽんぽんと軽く叩いた。
お言葉に甘えて、私はそういいラビの横に腰をおろした。



「何を悩んでるんさ?」

『実はね、「アレンのことか?」


何故分かった!!私が驚愕の瞳を向ければラビはしてやったり、という顔でにやりと笑った。



「そりゃ見たらわかるさ、俺は天才だからなっ!」



あ、私ぜったい口から漏れてたんだわ。
きらきらと輝かしい目の色が鬱陶しい。



『アレンと付き合ってるのに、全然進展がないの』

「そうなんかー、何処までいったんさ?」

『休日に一緒に遊んだ』

「え?そ、そんなんじゃなくて、手繋いだとか、ちゅうしたとか、」

『………ない』

「なぁにぃぃいい!!!」

『ちょ、ぎぃやぁっっ!!!』



ばたーん!!
ラビがあまりにも驚いて仰け反るからソファが後ろへ転がった。



『ラビびっくりしすぎ!
その反応に私もびっくりし
……!!』

「ごめんさ、でも本当びっ
……!!」



息が止まった。


私の下にラビがいる。
そしてなぜか左手は恋人繋ぎ。
こ、これはアレンに見られたら…


「何してるんですか?」

『ひっ!』



そっと、ドアのほうに目をやれば。
見慣れた白髪、目は半開きで真っ黒の雰囲気が談話室を支配していた。

これは弁解出来ない体制かもしれない、否、そうだ。
どうみても破廉恥な痴女が男の人に求めているようにしかみえない。



『うわあああ!ち、違うの!!』



急いでラビから離れ、ぶんぶんと両手を振るが変な汗がたらたらと背中に伝うし、顔から血の気が引いてるのが自分でも分かる。
これは確実にやったとしか思われない行動じゃあないか。

なんとかしなくちゃ、なんとかしなくちゃ、



「大きな音がしたのでこちらに来たんですけどね、どうやら心配する必要無かったみたいですね。お邪魔しました」



そう言い、にこりと笑顔を私の額に突き刺し、彼は自室へと踵を返した。

ごめん、というラビの声を振りほどき私はアレンの背中を追った。


『はっ…アレン…アレン!!』

「……」



返事もくれずにこつこつと重い靴音を廊下に響かせてただただ歩く。



『まってよ!』



バタン、目の前でドアが閉まる。
くらり、目の前が真っ暗になった。

アレンアレン分かってよ!
私がどれくらい貴方が好きか知らないでしょ?
もっともっと近付きたい、触れたい、それだけなのに。

このままではダメだ、私は震える指に力を入れてドアノブをまわした。



『……アレン、あ あのね「何しにきたんだよ」



突き放した言い回しと初めてきいた冷たい声。

瞳が熱を帯びる。
ここで泣いたら疑惑肯定の意味に取られてしまう。



『私ね、アレンだけなの!!
貴方じゃなきゃダメなの』

「じゃあさっきのは何ですか?」


ずい、と冷めた目をしたアレンが近付いた。
いつもの優しい笑顔の面影すら見えない表情に思わず目をそらした。



『ラビがね、…んぐっ!』



ぐい、いきなり顔をこちらへ向けられ唇を塞がれた。
あれだけ渇望した好きな人とのキス、のはずなのに強引で全くアレンが感じられない。



「…僕がどれだけ我慢したか分かってるんですかっ!?」

『え、』

「大切にしようと思ったから、キスも、ましてや手を繋ぐこともしなかったのに。でもラビなんかがあっさりとなまえと手繋いでますし。しかもあんな体制で…」

『違う!私が、わ…たしが…す きなの、は……アレン。アレンだけなの!
手繋ぎたいのも、ち…ちゅーしたいのも、それから、えっ「もーいいです!は、恥ずかしい…」



はっ!と我にかえる。
途中からはただ口から漏れていただけなんだ!
私はなんという破廉恥な…おぅふっ



「そんな情けない声出さないでください」

『うわあああ!!』



思わず両手で顔を隠した。
ああ、もう火が出てるわ!!大炎上!



「なまえ…」



アレンがそっと私の手をとく。
ふわり、一瞬の光が目を眩ませたかと思いきや、近い彼の整った顔。



「目、閉じて…」



言われるがままにすれば、そっと添えられた唇。



『今日だけで2回だね』

「まあ今日からは毎日ですけどね」



うわっ!一気に頬が紅潮する。
思わず両頬を手で冷やし、そっとアレンを盗み見すれば、アレンもやはり赤く染めた頬を片方の手の甲で隠していた。

今度二人でビビンバ食べに行こう。ああそうしよう。



*fin*



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