04


「……ただいまなまえ」

『おかえり、』



あたしたちは教団のみんなにバレないように逢瀬していた。
しかし逢瀬なんて生易しいモノでは無い、これは脅迫、揺さぶり。



「……浮かない顔、してる」

『わかるでしょ、理由くらい』

「まあ僕とかですかね?
あはは、あの時はあんなに淫らに乱れて僕を欲していたのに」



くすくす、馬鹿にしたかのように含み笑いをして見下げた。
なんでこうなってしまったのだろう。
ああきっとあたしの意志が、気持ちが弱かったから。
でもこんなに激しく求められても悪くないなんて思う自分が未だ何処か深くに佇んでいる其れもまた事実。
つまり愚かなあたしは残酷非道な彼を愛してしまっているのかもしれない。


俯いたままのなまえの顎を指先で上げる。無理矢理合わされた視線が舐めるようにじっとりとしたものから逃れるように逸らせば唇が奪われた。

逃げれども追いかけられ絡まる舌に、犯される口内。
酸素を求める隙すら与えられず後頭部を押さえられ深く、深く。



『……ん、はぁ』

「なまえ、可愛い」



ちゅる、とわざとやらしい音を立てて耳朶にキスが落とされた。

至る所に降る接吻ひとつひとつにあたしの罪悪感が薄められてゆく。
ふわふわとした高揚感に身体を支配された頃、視界が反転した。
白髪がさらさらと揺れ、仰ぐ彼の表情は何時もの優しさと裏腹、艶麗で悪戯。
一瞬どきりと心臓が跳ねて心許しそうになる。



『んっ……待って、駄目だよ』

「誰も見てませんよ、ほら手どけて?」



アレンの動きを遮る桎梏となるなまえの手を優しく解かして額に唇を落とす。



『でっ…も、もうシないって約束……』

「へーえ、じゃあ神田に言ってしまおうかなー?」


目を細めあたしの反応を楽しそうに伺うと、耳元でそっと囁く。



「僕らの関係を」


『!』

「駄目でしょう?
じゃあいい子にして、なまえ」



大人しくなったなまえをくすりと嘲笑し、首筋に噛みついた。
びくりと大きく震えた身体を優しく抱き締め、「大丈夫ですよ」と呟きなまえの着衣していたラフな私服を床に捨てた。


嗚呼、あたしのせいで彼はこんなにも獰猛で醜いものに変わってしまった。

初めてあたしたちが繋がった日、彼は自ら過ちによる罪悪感で眉を顰め私に沢山懺悔し涙流した。
強力な薬を使ったと。
本当になまえを愛しているのだと。

しかし甘いあたしに彼の誘惑は強過ぎた。

見え見えの罠に自ら引っ掛かりに行くようなもの。しかしあたしひとりではもう抜け出せない。どうしたら良いか分からない。
彼はあたしの弱みを掌で転がし弄んだ。


涙を流すなまえにアレンは唇を落とし宥める。


違う、こんなのが欲しいわけじゃない。

でも、あの時彼の元に足を運んだのは誰?…あたしだ。

なんで?…神田への宙ぶらりんの想いをただ埋めたくて。


結局は私自身のエゴじゃないか。彼をただ傷付けただけじゃないか。



『……あ、れん……ごめんね、ごめん……』

「……なまえ?」



ああ、ああ、あたしのせいでこうなっちゃったんだね。

激しく求める彼を受け入れる。

こうやってまた彼を傷付けるんだよね、堂々巡り。

でもまだ幼いあたしにはこうすることしか出来ないの。ごめんね。



危険なゲームは負のスパイラル。
もがけばもがくほど溺れ深みに沈んでいくことを私はまだ気づいていないのです。



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