05


彼女を純心に愛を傾けていたのは確か。
絶対に届く筈の無い永遠の片想いに終止符を打つのはこうするしかなかった。

君の弱みを握ること、ただそれだけで自らの意思で僕の名前をよんで、僕と繋がった。


涙を見せる彼女は時に罪悪感で押し潰されそうになっていたが寂しさには勝てない。
彼女は酷く愛に飢えていた。
不器用な神田の愛に気付ける程大人じゃない彼女は嫉妬に狂い彼の想いに飢餓して。
彼女は自分の心にぽっかりと空いた大きな穴をただ埋めたくて、罠と気付きながら他人の温度を求めてしまっている。
こうして今も。



「挿入れます、よ」

『ん、ああん!……は、う』



ゆっくりとなまえに体重をかけて沈めてゆく。
彼女の愛液が絡み僕を快楽へいざなう。

好きです、少しでも伝わればと何度も囁く。何度も。

わざと羞恥を仰ぐ為に彼女に聞こえるように音をたてて動いてやればなまえの顔が真っ赤に染まる。


僕以外じゃ出来ないような身体になれ。


結局は滑稽な彼女を傀儡として利用し都合の良いように己の欲を吐き出しているのもまた滑稽な僕。

嗚呼、届かないからこそ愛は深くなるのだろうか。

何時かそんな幼稚で気付かれない愛よりも自分を選び、そして振り向くんじゃないかなんて淡い期待を膨らませ自惚れているのも確か。



『……あ、れん……ごめんね、ごめん……』


やっぱり僕じゃだめなんですか。



「なんで謝るんですか!?」

『私、はアレンも好きだけど……んんっ!』



彼女の艶やかな唇を無理矢理塞ぐ。不用意な事態に彼女は大きく肩を揺らすもそれごと全て抱き締めた。


「わかってる、から」

『!』

「でも君を離したくない」

『アレ、ン』



言詞の続きなんか容易に想像出来た。台詞全部聞かされたらもうこの関係が壊れていくことも。

分かっている、恐らく君よりもずっとずっと。


しかし止められないのだ、恋は実に無力で要らない感情だと失笑する。
だってほら、こんなにも好きなのに彼女は見てくれやしない。
幾ら僕の名前を呼んでも求められても視線の先は目の前の男なんかすり抜けてイトシイ彼の面影を探しているんだろう?
だからもういいんです、君のことは手に入れることが出来なくても。


『は、もう、だ、め』

「まだイっていいとは言ってませんよ」



さっきまでの気がトぶような激しい愛撫がぴたりと止み足りなそうな表情を向ける。

ほら。

快楽でなら、支配出来るでしょう?


だからこその弱み。運命。
僕の手のひらで踊り狂い絶望して僕しか頼れないような孤独に苛まれてこそ真の僕の欲が満たされる。


その為には、傀儡が要らない感情を持つ必要なんかないでしょう?

つまりただ僕だけに至純の愛を傾けるだけでいい。色情に溺れるだけでいい。


どちらにせよ、彼女は僕から逃げられはしないのだから。


艶々と靡くその髪からちらりと覗く白い首筋にわざとらしく所有印をつけてゆく。

誰にも彼女を捕られたくない。
今、支配してるのは僕だ。

繋がる其処の律動を速めてゆけば彼女は先程よりも甘く鳴く。


「いいですか、き、みは……っ、僕だっ…けを見てればい、い」

『んんあっ!あん、あ、ふ』

「く、イきますよ、」

『あれ、ん……っ、いやああ!』



彼女の最奥部に白濁を吐き出す。


遠回りでも構わないから君に僕の軌跡を刻みつけてやろう。


息を荒めて倦怠感を引き摺るなまえの瞼にキスを贈る。
未だヒクついたままの蜜壷から名残惜しくも自身を引き抜いて彼女にシーツを掛けた。

本当は全然足りない。彼女がもっと欲しくて堪らない。もう全て攫ってしまいたい。
でもまだまだ楽しみはあるでしょう?

ゆっくりでいいんだ、焦らない焦らない。



シャワーを浴びながら、厭に外が騒がしいことに気付いた。

AKUMA!?それともノアか?

急いで身形を整えて彼女の耳元で「ちょっと外を見てきますね」と伝え自室を飛び出した。

近くにいた大柄の科学班にどうしたのかと話し掛けると、彼は「神田ユウが帰って来たんだ」と大きな声で言いにかっと笑った。


神田が、帰ってき、た……。


「アイツなんか感じ悪いから嫌いだがこんなに早く任務遂行するとはな!がはは」

「そうですか」



長期もいいところ、当初は半ば転勤に近いんじゃないかという程長い期間を必要とされていた任務をたった1ヶ月でこなし、怪我ひとつせずに帰って来たそうだ。しかしファインダー17人が怪我、1人死亡。

しかし彼は申し訳なさそうな顔色ひとつせずに「自分の命は自分で守るものだ」と言ってのけた。

それに逆上して掴みかかる者や涙を流す者など、廊下はかなり混沌としていた。


きっと彼は彼なりにやったのだと思う。しかし生きるのが不器用なのだ、そう愛だって。



ねえ、なまえならどちらに行くのでしょうか。

多分99%彼女は神田に向かうだろう、ひょっとしたらもっと神田が恋しくなったかもしれない。


しかし僅かな可能性にかけたい。
それに彼女には僕に負い目があり、弱みがある。
簡単に手離したりはしないから。



ゲームの首謀者と何も知らないプレイヤー、犇めく定めは、勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか。





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