06
うるさいうるさい。
全くこの教団は鬱陶しい奴ばかりだ。
自分の命はてめぇで守るモンだろ、弱い奴の寿命はそこまでだったということじゃねえか。
集団で傷を舐めあうことでしか生きれねえ弱小共が。
掴み掛かってきたファインダーを睨みつければ頬に唾を引っ掛けられる。
何やってンだよ、これはぬるい同情の舐め合いの為に使うモンだろ?
ゴツいだけの首を掴み持ち上げる。呻き涙を流してやがるが手を緩めるつもりは無い。
「なにしてんだよ、俺は真実を言っただけだぜ?」
「うっ……かはっ、」
このまま死なしてしまったとてこんな図体のでかいだけの奴なら掃いて捨てる程いる。
なんならこの引っ掛けた汚ねえ唾の報いにいっぺん死ぬか?
ギリギリと腕の力をゆっくり入れてゆけば弱まる生体反応。
今更虫の鳴くような声でやめろと乞うた。つくづく片腹が痛いな。
死に様を目の前で見てやろうと苦しむ大男の切れる息を見ていれば不意に横から頬を叩かれた。あまりに急だったので思わず手を離すと横で憤慨しているのはモヤシ。
『なにしてるんですか』
「なんだよ、義侠心の上のヒーロー気取りか?」
『じゃあ神田は悪役承知の上ですか?』
くす、と嘲笑しやがったモヤシを睨めば「なにか?」と笑顔で返事を寄越した。
高い鼻っ柱叩き折ってやろうか。
「随分とご機嫌じゃねえか」
「ええとっても。最愛のモノを手に入れたもので」
嬉々とした声音で俺に別れを告げて人混みに消えた。
まだまだ餓鬼だなと笑う反面、妙な違和感を感じた。いやこれは勘。
なんだか嫌な予感がする。
未だ咽せる大男を放ったまま頭をちらつく俺の中の最愛のモノのもとへと向かう。
長い廊下を急ぎながら俺は何故か焦っていた。
モヤシの戯言だと頭では割り切っている筈なのになまえの顔が無性に見たい、ガラにねえが逢いたい抱きしめたい。
なまえの部屋を勢い良くノックすれども無人なのだろう、中では物音ひとつしなかった。
畜生、なんだよこの胸騒ぎ。
蛻の殻となった部屋の前から踵を返し先程来た廊下の方へ向けば、小さくなった俺の最愛のモノが。
「なまえ、」
『…………』
勝手に足が駆け出し、彼女を抱きしめた。
久々の懐かしい感覚というより、なんだか別人のように違っていた。
華奢な体は以前見た時より遥かに痩せたように思える。
小さな顔を持ち上げれば桃色だった両頬は血色が悪くなり真っ白で、ふたつの輝く瞳は昔のような美しさを失い、俺に恐怖の色を映していた。
酷い。
まるで死人じゃねえか。
「……どうした、なんかあったのか?」
『か、んだぁ……』
俺の団服をくしゃりと握りすがりつく。
俺が居ない間に、何があったんだよ……?
さらさらと流れる髪が首筋を滑れば、そこにあるモノに我が目を疑った。
なんだよ、これ。
なまえの首筋に紅く花開く痕。
不信感を募らせながら未だ無言の彼女の首筋を撫でる。
彼女は大きくびくりと肩を震わせてばちりと此方を見つめた。
「……どうしたんだ、ここ?」
『む、虫刺されだよ』
「へーえ」
なまえは笑顔を浮かべ右耳に髪をかけた。余計に痕が際立たされる。
……なまえの癖。嘘をつくときは必ず耳に髪をかけて下手な笑顔を向けること。
純粋なコイツは嘘が下手くそだから。
やはりあの疑惑はみるみる音を立て大きく膨張してゆく。
「じゃあ此処もか?」
『へっ!?』
唇をなぞる。
当然そんなことは無いのだけれどもしこの空いた期間に誰かに奪われることが合ったとしたら。
なあ、そんな馬鹿なことねえよな。
「此処にも、虫刺されはあるのか?」
悪い虫が、付いてやがんのか?
『……ごめ、ん』
頭上から大きな岩が降りどしんと頭を殴った。
消失感が身体から力を奪ってゆく。
ンだよそれ。
「……モヤシか?」
『……う、ん』
許さねえ。最愛のモノを奪ったアイツも。なまえも。
「…来いよ」
『か、んだ?』
「早くしろっつってんだろ!!」
『!』
初めてなまえに怒鳴ったと思う。昔は愛しすぎて壊すのが怖くて仕方無かったから。
その分なまえはびくっと大きく肩を震わせた。
裏切り者には、制裁を。
危険なゲームには代償が必要。私には、なんの代償が奪われるのでしょうか。
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