07



初めて見た彼の怒号、突き刺さる冷たい目線。

手首を掴むその力が彼の怒りできりきり強まり痛む。


『神田、何処行くの?』

「…………」





彼の部屋に着くとぶっきらぼうに放り込まれ、思わずしりもちをついた。
彼は鬱陶しそうに一瞥し、私の腕を引き上げると投げ込まれるはベッド。



『え、うそ……ちょっと待って、』

「裏切り者、が」


彼の手を掴んで阻止するも男性の力に叶う筈も無く、自分の貞操は守ろうと身体をよじってベッドの端に逃げれば「下らねえことすんな」と頬を叩かれた。

痛い、という感覚よりその行動をされたことによる驚愕の瞳を寄越せば濁った視線が返され。

ああ、大好きだった神田の艶麗な瞳の輝きは私のせいで汚れたんだ。

はらはらと頬を伝う涙。
それをぶっきらぼうに拭い、「そうやってモヤシも泣き落とししたのか?」なんてくつくつと喉を鳴らし一気に服を引き裂いた。

ぱちんぱちんとボタンが飛ぶことさえ気にかけずに忌々しい印が着けられた首筋に噛みつく。

愛の無い愛撫に悲鳴があげられば大きな手で口元を抑えられた。

これじゃあ強姦だ。
大好きだった彼の面影すら残さない。


「……モヤシともこんなんだったんだろ?」

『ち、がっ……』

「なにが違うんだよ!」

『ひぃやあ!』



神田の神経質な指が秘豆を執拗に擦る。
心はこんなに恐怖に支配されているというのに身体は征順、快楽地獄にのめり込む。

当事者は自らの手で色情に足掻き溺れてゆく目の前の裏切り者の滑稽な姿を嘲笑していた。



『……ん、あぅ、あん』

「いいんだろ?はっきり言えよ」



ふるふると首を振ればまた弱くなった敏感な感覚器官を責めて。

だんだんと強くなってゆく快楽にい、く、という消えそうな声を絞り出せば悪魔の鼓膜を震わしその手を止める。もうこれで何度目だろうか。


くるりと振り返り涙目で彼を写せばにやりと如何にも楽しそうに狡く笑う。



「なんだよその目、欲しいのか?」

『……やっ、だ…要らない、』

「こんなに濡らして良く言えるな。
それとももっと欲しいからわざと言わねェのか?」



神田の骨ばった長い指が一気になまえの蜜壷に飲み込まれた。
その瞬間に快楽の一撃が彼女の華奢な背筋を大きく反らせ、呆気なく達してしまった。
力無くベッドに横たわるも悪魔のような彼は一時の休息すら赦さない。
神田がまた無理矢理瑠璃の腕を引っ張り上半身を起こさせる。まだ半ば夢現(ゆめうつつ)の彼女の耳元に息を吐きながら囁いた。


「入っただけでイったのかよ、淫乱が」



神田は前のように優しく髪を撫でてくれたりはしない、壊れ物のように大切にしてはくれない。
そうだ、全て私が悪いんだもの。

大きく肩で息をする私を罵りながら彼は指でなまえの愛液を掬い豆に塗りたくり、先程より激しく擦ると同時に指を増やして知り尽くした私の良い所を執拗に責め立てた。



『……んやあ!ん、んあっ、』

「モヤシとヤったときもこんな風に喘いだんだろうな、淫乱」


なまえの頬に流れた一筋の涙を暖かい舌でそっと掬う。しかし下の責めは止むことを知らないまま。


『んぅう!違う、よっ、愛して、るっのは……かん、だ…だ、け!』

「チッ」



もう神田は私を信じてくれないのだろうな。
もう何度私の心意を叫べども彼には届かない。



「おら、挿入れてやるよ、変態が」

『ふっああ!……ん、』



彼の大きく反りたった自身をなまえの蜜壷にあてがい優しくさすり、腰を抑えるとなまえに被さり一気に其処を突いた。
溢れんばかりの蜜が、彼の息子を含む。甘い刺激が眉根を顰めさせ婉然とした艶っぽい表情をする。



「……く、」

『ああぅあんっ!』



指とは明らかに質量が違う其れにただ呻くばかり。

神田と繋がれた感動、喜びよりもただ腰を打ちつける愛の無い痛みにただただ涙が零れる。
乱暴に打ち付ける其処に当然愛なんて皆無。
前のように不器用な優しさを与えてはくれない。



「なに泣いてんだよ、早くイけよ!」

『や、だ!んあ、うぅ』



はぁ、と息を荒くする彼は果てが近いのか律動をどんどんと早めてなまえをゆさゆさと揺さぶる。
それにより快楽に導かれてゆき、神田の背中に両手をまわし爪を立てた。
結局神田は一度も名前を呼んではくれなかったし愛してる、と囁いてはくれなかった。

深奥があたる。
彼の激しい運動になまえの涙がたくさん飛び散った。



「イくぞ……くっ、」

『……ん、あああっ!』



神田の熱い白濁が中に注がれる感覚と同時に私も快楽が一入、そして意識の喪失………。

































『……あ、れ?』


ひたひたと溜めた湯船にふたり、浸かっていた。背中に彼のやわらかい体温。


「目ェ醒めたか、おはよう」



嗚呼懐かしい、私だけの優しい笑顔。
大きな手が私の髪を梳く。
指先が、私に「好き」と言ってくれているみたいで何時もこの行為は大好き。



「……ごめんな、痛かったか?」

『えっ、ううん』



神田が目を伏せて後ろから私を抱き締めた。
ちゅ、と耳朶に降ったキス。

なんで?なんでそんなに優しくするの?
私は、裏切り者なの、に



「……これからはずっと一緒だからな、」

『う、うん』



何だろう、彼の優しさが、艶然が。

怖い、



「そうだろ、お前の身体を知り尽くしているのは俺だ。何処が一番甘く喘ぐか、何処に弱いのか。全部。
いっそお前自身よりも」

『……んんっ』



ねっとりと耳朶から耳の裏を舌が這う。
低いテノールが私の鼓膜を震わし一層背筋を凍らせた。



「俺のこと嫌いか?」

『ううん、だいす、き』



有無を言わさないその質問に、ただ俯く。
確かに此に嘘は無いし、彼に愛して貰えるただそれだけで私を幸福へと誘うのは確か。
でも、なにか違う。

神田って、こんなこと訊いたっけ?



「じゃあ愛してるって言ってくれ」

『愛して、る……愛してるよ、ユウ』



そんな虚ろな瞳、してたっけ?


「なにがあってももう離さねえから」



ああ、神田は私の手で壊してしまった。
愛されていないと、ひとりよがりだと勝手に嘆いて。
愚かな私は彼の愛がこんなに深く大きいことにやっと気付いた。

そして、彼の重圧な檻からもう逃げれないことも。



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