真夏の夜の夢
むせかえるような熱帯夜、扇風機だけで夏を乗り越えるというほうがおかしい。
『だからって…』
「呪怨見ましょう!」
『やだって!ホラー系ほんとだめだもん!!』
「じゃあいいですよ。
リング見ましょう!」
『変わってねぇよ!』
暑さのあまり眠れない私はアレンの部屋に訪れたはいいが、この有り様。
『もっとさぁ、バラエティのとかないの?お笑いの』
「うーん…着信ア『もーいいって!』
アレンはかちゃかちゃと勝手に呪怨を取り出し再生し出した。
『ちょっと!?聞いてんの?てか始まってるー!』
暗い部屋にホラー映画がぼうっと浮かび上がる。
まだ怖いシーンが来てはいないというものの、やはり独特の雰囲気に飲み込まれている、それだけの要素だけで私は背中をひやりとさせられていた。
「あっれー?まさかなまえ、怖すぎて喋れないんですかぁ?」
黒い悪魔の笑顔が薄暗く照らされる。
『だ、だから怖いっていってるじゃん!なんなのなんなの!!うっわあああ!!』
これだからホラーはだめなのだ。
どん!という大きな音とともに世にも恐ろしい面が画面いっぱいに映し出される。
「ちょっと………な、なんの冗談ですか?」
『えぇ!うっわあああ!!』
私の両手がアレンの腰あたりをくるんでいた。
つまり。
『なんてか…思わず』
「まあいいですよ」
見上げれば、にやにやと笑うアレン。
ごめん、一言呟いて私が腕を離そうとしたら、
「なまえ、怖いらしいのでこのまま見ましょうか」
ふわり、私を抱きしめ返した。
一気に距離が縮まる。
あまりにも予想外すぎて全く力の入ってない私は思わずアレンの顎にキスを落としてしまった。
『!!!』
きゃぁぁあ、と画面の中で逃げまとう女性の経緯なんて頭に入らない。入るわけがない。
ひょっとしたらばれてないかもしれない、かすかな希望を胸に秘めながら様子を伺えば、すかさず奪われる唇。
「馬鹿ですね、わざわざ顎にして焦らすなんて技は僕には効きませんよ」
にっこりと爽やかな笑顔が暗がりで浮かぶ。
『…あっ、アレンー!』
「反抗するんですか、じゃあ帰ってください」
『ご…ごめんなさい』
こんな状態で帰れるはずがない。
もはや窓や箪笥の隙間すら恐ろしいのに。
しかも瞼の裏には世にも恐ろしい面が反芻している。
「じゃあ!」
『ほゎおぅっ!!』
耳元で叫ぶ上に抱きしめる腕を強くするので私の心臓が一瞬止まった後にうるさく打っていた。
「泊まるんですよね?」
やわらかい声で私を見つめる。
このときに馬鹿な私は初めて気付くのだ、
『策士め!嵌められたー!!』
どちらとも見分けのつかない汗が私の腿にぽたり、と一粒溢れた。
*fin*
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