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なんで。
なんで
なんで
なんで
なん、で
頭が真っ白になり、足元から泥沼に堕ちてゆく。
鼓膜では煩いくらいの早鐘と心音が鳴り響いているというのに不思議、指先ひとつ動かせない、
バカだな、私も全く同じことしたじゃない、なんでこんな悲しんでいるわけ、
勝手すぎるでしょ、
頬に熱い何かが伝う。
ああ、これは
涙、
枯れていた筈の涙腺は何時の間にか潤い体内の水分を失ってゆく。
忘れていた、人が泣くことを。自分が泣くことを。
早く何処かへ行かなきゃ、此処から離れなきゃ、神田やリナリーに見付かってしまうの、に
何故か足が鉛のように重く重力に逆らえない。
動け、動けよ私の脚!
震える膝を無理矢理引き摺るように足を一歩ずつ進める。ふたりの姿が見えないところまで。
違う、違う、嘘だっ、
息が上手く出来ない、
傷が痛い、
肺が痛い、
心が、痛い
ぱたり、反響する自分の足音が止んだ。荒い息を整えフラッシュバックを阻止する。
愛してる彼、掛け替えない友達、ふたり、逢瀬、
接吻
未だくらくらと錯乱する頭を抑え、辺りを見渡せば普段見ないような慣れない廊下まで来てしまったらしいと理解した。
彼らが見えない所まで来たのか。
不思議とその途端に強張った身体の力が抜けてかくんと膝が機能停止しその場に座り込んだ。
情けない声がただ喉から漏れて、涙が廊下を濡らしてゆく。
点滴もまだ何も知らずに一定にぱたりぱたりと私の身体に流れてゆく。
ああ、この水で私の悲しみが薄れればいいのに。
朝になれば全て浄化しきればいいのに。
願うなら、これが全て私の悪夢ならいいのに。
ああ、ああ、やはり報いは巡り巡って返ってくるのだ。例え彼が私の大罪を許そうか否か私にとやかく言う権限なんて存在しないと分かっていた、のに。
嘘。
綺麗事じゃ繕えない。
本音を言えば手放したくない。
君以外、何も要らない。
流した涙を誰にも拾われたくなかった。見つかりたくなかった。
誰も居ないところに逃げたい。
立ち上がり逃げようにも座り込んだ廊下から立ち上がれなくなった。
まだこんな距離歩いたら駄目だったんかな、走っちゃったし、
ああ、身体が酷く重い、
意識の維持が辛い、
ぼやける視界を塞ぐように瞼を閉じれば意識が堕ちていった………。
かしゃん!
『うわあ!!』
突然の轟音に一気に意識が引きずり起こされた。
身体を起こすとどうやら点滴を掛けた手押しを転かしてしまったらしい、点滴がゆらゆらと針先を彷徨わせていた。
左右に振れるチューブを見ながら一気に血の気が引くのが自分でも分かった。
やばい、これは絶対婦長に怒られる……!
こないだ医療班総出で厳重注意されて今日のこの件が立て続けに起こったのだ、これは怒られるだけでは済まない!
とりあえず壁際まで寄って隠れる。
もう昼前なのだろうか、太陽が頭上からさんさんと窓を突き抜けており、教団はいつも以上に賑やかになっていた。
はたと耳をそばだてると、本日二度目に血の気が引いた、いや寧ろ目が回るくらい。
もう一度落ち着いて注意深くきく。聞きづらいがやはり途切れ途切れの言葉の端々が「なまえ」「脱走」「行方不明」などと私が現在置かれている情報のワードが並べられていた。
変な汗が背中を伝う。
みんなが私を探しているんだ!
どうしよう!?
立ち上がろうにも足が動かない、手押しを起こす力も無くなっており、途方に暮れた。情けない。
誰か来てくれるかな、本当に申し訳ないな。
ああそうだ、助けを呼ぼう。
大きく息を吸い込んだ瞬間、
「久しぶりですね、なまえ」
『!』
後ろから口を塞がれた。
優しい声が耳元で震える。
この声、香り、白髪、
そっと手を解かれて振り返れば、
『……アレン』
にこりと見透かした瞳を向けるは、悪戯な笑顔の少年
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