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なんだよコイツは!

気が可笑しくなるんじゃないかというくらいずっと逢えなくて、機が来るまで待っていたらさっきいきなり来て、開口一番「俺を想って」と泣かれて別れを告げられ、おまけに記念日の香水も突き返された!
俺がどんな想いでひとりで買ったと思ってンだよ!すっげえ恥ずかしかったんだぞ!ああムカつく!しかしそれより何も言えねえくらい歓喜してしまってる自分が一番ムカつく!!



「お前は、全くわかっちゃいねえ」

「…………」



確かに寂しい思いをさせてしまった。不安にさせてしまった。
でも俺だって本音を言えば逢いたかった、声が聞きたかった、抱き締めたかった、それ以上のことも。

それも全てお前の為、に我慢したのに。

なんで今更来たんだ。
それも、別れの言葉かよ。
言うだけ言って、帰ろうとしやがって。
やっと逢えたってのにもう歯止めなんか効く筈ねえじゃねえか。否、止める気なんかさらさらねえ。



「俺だって惚れた奴に逢いたくなんに決まってるだろ」

「!」



なまえが揺れたその暫時、透かさず彼女の肩を軽く押し倒した。
未だ華奢な身体を抱き締め横溢する節操のない想いを一気にぶつける。
間断すら与えず唇を重ね舌を絡まし、俺の肝胆に空いた穴をなまえで埋めてゆく。
意外にも反抗しないのを良いことになまえの体温やわらかさ全て快意となり俺を包む。
ああ空っぽになってしまった情けない俺を埋めるのはやはりこいつなのか、なんて自らを侮蔑し嘲笑した。

名残惜しくもそっと唇を離せば漆黒の瞳は潤い大粒の涙を零していた。



「……ずるいよ、神田は、」

「…………」

「私だって、神田のことは好きだよ。
……だけど」



だけど。
その先の想像は容易だった。
リナ、だろ?

アイツとは何も無いと言っては嘘になる、だがアイツも俺も虚像でしかない。
リナは今正常な思考が出来ない錯乱状態のだけだ。
それもお前の所為、でな。



「もう少し、待ってくれねえか」

「なん!……で、」



バタン!

その瞬間、物凄い轟音をたて扉が開かれた。

見やればにこりとわざとらしく目を細めた、


「……リナリー」

「なん、でなまえが居るのよ!?」



つかつかと勝手に部屋に上がり込みリナリーはいきなりまくし立てだした。
思ったより早く事がまわり出したらしい。
うっすら口角が上がり怒り心頭した女に内心でざまあみろと嘲笑し、毒を吐いた。



「よお」

「なんで!?なまえとは逢わないって約束でしょ!?」

「さあな」

「なにそれ!神田が悪いんだからね!?」

「そうだな」

「私のなまえを傷付けた罪は重いのよ!!」

「!!!」



俺の下で硬直したなまえが此方に驚愕の瞳を寄越した。
馬鹿が、やっと意味が分かったか。



「なに、それ。リナリー、どういうこ、と?」

「なまえ!なまえは何も心配要らないのよ?私が守ってあげるから」

「……!」



俺の下でなまえが身体をぞくりと震わした。
蒼白になった顔や恐怖の色の瞳が彼女の激しい動揺を透かす。

分かったか。リナリーはな、お前に狂ったんだ。



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