明るい家族計画

初めて他人に恋心、という馬鹿な感情を抱いてしまった。
どうすればこの絡まる面倒な感情から解き放たれるのかが分からない。
ただ、目の前に座る女が愛しい、だけで。



「好きだ」

「私もユウくん好きだよ」



そう言って優しく目を細めるなまえにぎゅうと胸が狭くなる。こういう感情は何時まで経っても慣れなくて、初めてで、妙に擽ったい気持ちになって、自分でも処理出来ない止め処ない気持ちが溢れてゆく。



「好きだ」

「うんついさっきも聞いたよ、私も好きだから」

「抱き締めて良いか?」

「どうぞ」



生意気にもなまえが小さく両手を広げるのを其れ事全部抱き寄せた。
華奢な彼女の腕が俺の背中に回る感覚や、嫌いじゃない甘い香りのする髪に鼻を埋めて幸せを噛み締める。
一層なまえという存在自体が俺の愛という形なんじゃないのか、というくらい愛おしい。
モヤシや糞兎に嘲笑されようが構わない、情けなくも俺はコイツに溺愛だ。

抱き締める腕を強めればなまえが小さく潰れるようなくぐもった声を漏らした。



「ユウくんユウくん、苦しっ、」

「手を緩めても離れ離れにならないか?」

「寧ろユウくんの腕の中で私がバラバラになりそうですよ」

「…………」



腕の力を緩めて彼女を解放するとなまえは頬を赤く染めてにこりと笑った。



「ユウくんは普段から鍛えてるんだからちょっと力入れたら科学班の私なんか一捻りだよ」

「すまねえ」



すると突然なまえの顔が近付いてきて、視界が暗くなったと思えば啄むような接吻ひとつ。
甘い余韻を残して離れれば悪戯っ子のように口角を上げて笑うなまえ。絡まる視線や息遣いに誘われるように彼女の肩を寄せてベッドに寝かしぷくりと膨らんだ唇に自らのモノを重ねて、本能の赴くままになまえを求める。
そのままスカートから伸びた白い太腿を掌で撫で上げればぞくぞくと震えるなまえの身体。
一気に欲情し体内温度が高騰してやわらかい豊満な胸を弄ぶと、とんとんと胸板を叩かれて未練がましく離せば瞳を潤したなまえが荒くなった息を整える。



「だ、だめっ!
き、今日は、……危険日だっ、から」

「いいじゃねえか、可愛がってやるよ」

「子供も?」

「ああ」

「でも私は子供ばっかに追われちゃうかもしんないよ?」

「構わない」

「ユウくんより子供にばっか愛情注がなきゃいけないし」

「別に、いい」

「そしたらふたりの時間が減っちゃう」

「……別、に」

「それでも良いの?」

「…………」



正直、困る。
確かになまえに似た愛くるしい餓鬼ならちょっとは可愛がれるかもしれねェが毎日餓鬼になまえをとられるのは喩え我が子とはいえすっげムカつく。

上体を起こし、灼熱になった身体を醒ますように髪を掻き上げて乱す。

なまえの手を引いて再び腕の中に閉じ込めればそっと耳打ちされ、



「ユウくんがその大人気なさから卒業したら可愛い子供育てようね」

「……チッ」



何時かこの戦争が終わったら、なまえに似たムカつく餓鬼の面倒を見ながら俺の隣でなまえが笑い、俗に言う幸せな家庭というものを築きたいなんて、馬鹿な幻想だがお前となら悪くないし何時か叶えてやりたいな、とからしくないことを考え一層腕の力を強めひとりで苦笑した。






(今はふたりきりの時間を)



fin