青春


ああ、卒業前の哀愁漂うこの校舎、三年棟。
それぞれの未来、進路が決まってきて。ぴりぴりした空気から解放されて、残りの日々を大切にしようと笑いあっていた。

みんなとの思い出忘れたくない、この校舎の古ぼけたひびも、しわくちゃに笑う先生も。

でも。別れを惜しむ前に。



「卒業考査で赤点とったら未来に羽ばたけませんよ」

「ですよねー」



当然感動の涙だけで卒業させてくれるわけではない。
しかも今までのテストも赤点ばっかりで今回の卒業考査でひとつでも赤点とっちゃったら情けなくもう一度後輩と同期として同じ学習内容を学ばなくてはならないのだから!



「なんでこう、いい雰囲気のまま羽ばたかしてくれないかなー」

「こんな馬鹿がうちの高校卒業とか言われたら汚名だからでしょう。というか正直言えば追い出したいと思います」

「じゃあこっそり筒に入れた白い紙だけ欲しいな」

「黙ってたら堂々とおっぴろげに赤点くれますよ」



明後日に卒業考査を控えている筈なのにセンターを終えた私の頭には来週のドラマの予定とか向かいのパン屋の新商品とかゲームの攻略法とかしか入って無い。



「だから早く勉強しましょう。こんな紳士な僕が教えてやるんですから3位以内には入ること」

「無理無理!大体紳士じゃな……痛ててて!!」



紳士が私の足を全力で踏んだ。紳士か?これが紳士なのか?



「女性の足を踏むのは紳士じゃない気がしますアレンさん!」

「僕はわざわざなまえの為に靴を脱いで踏んでるんですよ!?紳士でしょう!」

「なにその逆ギレスイッチ!」



なんなのなんで足踏んで彼は憤慨してるの!?
逆に喜んで欲しいくらいだよ。いや別にMとかいう性癖は無いけど。



「大体なんなんですか君は!僕にたてつくつもりですか」

「いやだって足……」

「そんなことしたらなまえの三年間の愚行を全部おっぴろげに叫びますよ」

「無いよそんなの!」

「へーいいんですか、なまえの下着「ぎゃー!本当に申し訳ありません本当に!」

「……分かったら良いんです、分かったら!」



なんでこういうときに彼氏という権限を振り回すんだコイツは。
私の初夜の下着を「乙女だ!」と爆笑した紳士は爆発したほうがいい、きっと!これは国家単位で。



「じゃあ早く範囲まできっちり覚えてください」

「なんでそんな本気で教えてくれるの?」



そりゃ、卒業出来ないことは私にとってもかなり困ることなのだが、なんで腹黒い彼が私の将来を心配してくれるんだろう。これはやはり愛?

注意深く伺う私に彼はふわりと真っ白な笑顔を浮かべた。
きゅうと衷心から胸を締めるような艶然で、思わず呆けていると彼の長い指先が私の頬に触れる。
その優しい温かさや眼差しに思わず眩暈がするほど心臓が大きく高鳴り、頬が紅潮した。

いきなり、な、何?






















「そりゃ勿論腐っても彼女が留年なんて僕の株が大暴落しますもん」

「なにその腐ってとは!」


……なんだよそれー!?
一瞬どきどきしてしまった私を誰か消してくれ!というか彼の記憶から消してくれ!また脅しの台詞として新しい語録に登録されてしまう!



「何なんですか欠点ギリギリがこの僕にたてつくつもりですか?」

「いひゃいいひゃい!」



さっきまで頬を撫でていた筈の指先は憎しみの力が込められ思いっきり頬をつねっていて私の目に少し水分が溜まった。多分原因は抓られたことだけじゃないだろう。



「そういえばなまえはどうするつもりですか、将来」

「あのね、大学に行ってから事務い「あー、僕の元で召使いに就職したい?
なんて献身的!やっと僕に恩を返そうと思ったんですね」

「言ってない言ってない!」

「え?なんて、言ったか、聞こえません、でした、け、ど!」

「痛い痛い!」



そして紳士はわたくしなどが申す意見なんて毛頭聞かれる気も無いままご丁寧に靴を御脱ぎになりわたくしの足に力を込めて踏みやがりました。痛い!



「仕方ないですね、じゃあ今はアルバイトということで折れてやりましょう。
なんて心広い僕!」

「…………」

「その代わり、大学卒業したら召使い永久就職ですから」


「えっ?」


驚きのあまり彼を見やるとムスッとして俯いたアレンの頬は真っ赤に染まり、白髪との紅白なコントラストを魅せていた。


それってつまり、



「ほ、本当に……?」



彼は何時もの余裕綽々の態度とは相変わって頬を真っ赤にしたまま白髪を右手でくしゃくしゃに乱した。銀灰色の瞳が不安そうに私を映す。
これは何時もの冗談なんかじゃ、ない?



「ああもう!は、早く返事しろ!
折角僕がなまえなんかを採用してやるんですか…ら」



何時もより小さく見える紳士さんがなんだか可笑しい。



「喜んで」

「本当!?…っあ、違」



アレンは一瞬まるで子供のような満天の笑みを浮かべたと思ったら、直ぐにしまったというような顔をした。



「嬉しそうな顔してるー!」

「煩い!一生働き詰めにしてやる」



またむくれてしまった彼に手渡された「契約書」とかこづけられたその薄い大きな紙には、茶色い文字ではっきりと「婚姻届」と書かれていた。






(退職なんて許しませんから)



fin




莉蘭さまへ!
遅くなってすみませんでした(´・ω・`)
こんな残念人間に声を掛けて下さりありがとうございました!!
真っ黒になりきれてないアレンくんですが良ければ貰ってやって下さいな。
返品修正ばしばし仰ってくだされば是非やらせて頂きますので気軽に言ってくださいね(^ω^)
本当にありがとうございました!



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