青年は身体を重ねて恋を知る



『……か、んだっ』



俺の名を呼ぶな。


この気持ちは何なんだよ、ムカつくんだよこんな女、


ぐちゃぐちゃに壊れてしまえ



『……んんっ、好きよ神田っ、』

「っはぁ…」



俺が壊れてしまえと強く愛撫する度に女のあげる嬌声が俺の本性を狂わせてゆく。それが余計に気に入らなくてもっと強く腰を打ち付けた。


今月どのくらいの女を抱いただろうか自分でも分からない。教団の殆どの女とはヤったと思う。
しかし幾らこんなことをしても一向に俺の苛立ちは収まらず寧ろ加速していく一方だった。

どんなに美人と囁かれている奴だって、どんなに理想だと謳われている奴だって直ぐに股を開き必死に耳障りな喘ぎ声をあげる。俺はなにか消失感に駆られ何時も一晩で捨てちまい非道いやら外道やら散々云われるわヒステリックを起こすわ見るも心底無残な醜い光景だった。鬱陶しい限り。

でもコイツは違った。
どんなに酷い愛し方をしても、捨て方をしても人間の汚い部分、ボロを出さなかった。
次に戻ってきても優しく受け入れた。
美人やら謳われる奴らより遥かに美しく婉然だなと素直に思えたんだ。

だからムカつく。
コイツには人間味がまるで見られねェ。
俺に綺麗な部分しか晒さない狡い奴が赦せない。

早く壊れてしまえ。
お前も他の女と一緒なんだろ、早く偽善の仮面を脱げ。



『ああっ、もうだ、め』

「っく、」



きゅうと締め付ける最奥部に欲を吐き出す。
せめて身体だけでも俺の手で汚してやりたい。



ぐったりする女の額にキスを落とした。
今思えば情事後にこんなことした試しが無かった。ただ果ててからみる女が実に醜く行為自身が下らなかったから。それがまた俺に喪失感を与えていた。


ん、と小さく柳眉をひそめ寝返りを打つ女の細い髪を撫でる。なんでヤってからもあの苛立ちや滑稽だという嘲笑が俺を苛まないのだろうか。こんなにも幸福感に包まれているのだろうか。

暫くすれば女の純粋な瞳がゆっくりと開かれ汚い俺を映し出した。



『神田、行っちゃうの……?』

「…………」



何時もなら鬱陶しい女、と一瞥して関係を完全に断ち切り背中に暴言や怒り悲しみをぶつけられているだろう。(まあどうでも良かったが)

実際もっと情事が上手い奴もいた。行為依存症の奴もいた。
それに比べればコイツなんか掃いて捨てるほどある筈なのに。

なんでだろうか、お前は違うんだよ。


「……行かねぇよ」

『本当?他の子のところにも?』



女が俺の頬を撫でた。女の瞳から涙がぽろりぽろり。
嗚呼、そうか。
俺は幼子のようにただ安息が欲しかったんだ。
無償の愛が。



「お前だけ」

『!』

「なまえ」

『……名前、神田に呼ばれるの初めて』



俺だって初めてだ。女の名前を覚えようとするなんて。みんな身体だけで同じようにしか見えなかったから。
しかしお前は違う、なまえという人間がみたい、感じたい。
名前が呼びたいんだ、
これはやはり、



「愛して、る」



恋なのか?








fin