ハッピーバレンタイン?
ああ、僕の命日は今日までか。
天寿を全うすることすら出来ずに死んでしまうのか。
思えば悪い人生じゃあ無かったかもしれない。
素敵な仲間に出逢えて、こんな愛しい彼女に巡り逢えたのだ。
彼女に殺されるのなら本望だろう。
「ああ現世よさようなら、今までありがとう」
『ちょっと!なに私が凄い悪党みたいな設定になってるの』
「だって、」
『だって?なによ?』
……言えるわけが無い。
彼女の手作りが、殺害道具だなんて。
実にエキセントリック、芸術的すぎて常人には理解しえないものになっている。
チョコレートがその常識をぶち破っているのだ。
きっとカカオも今「えっ、ちょっと待って、おいらの格好最先端過ぎるだろ」って自分のフォルムのトリッキーさに度肝を抜かれてますよ。
『アレンもうちょっと待ってね』
「……ああはい、」
ちょっと声が上擦ってしまった。
待てない待たない待ちたくない。
出来ればもう一度チョコを溶かして元に戻してほしい。いや戻してあげてほしい。もうカカオは南米に帰れなくなってしまう。ましてや帰路途中に生チョコやトリュフに会ってしまったら「やーいお前自身おばけ屋敷ー!!」とか言われて森に還されてしまうかもしれない。
いやまて、この純粋カカオくんはもう既になまえの手によって変な知識入れすぎて刻々と黒歴史を生産する中学生みたいになってるかもしれない。もう南米に帰ったところで変にグレて「俺に近付くんじゃねえよ」とか言っちゃうかもしれない。…あ、なんか神田にみえてきた。厨二病神田。カカオマス神田。
……いやいや今は糞ぱっつんの心配なんか要らないんだ。僕だよ僕。うっかり生死が関わっているというのに。
なんとかしなきゃ、なんとか。
「ぼ、ぼぼ僕チョコよりもなまえと一緒に居たいなあ、なんて。あはは」
『えええっ!?アレンたらっ』
なまえは頬を少し赤らめた。
本当そういうとこは可愛いんですけど。
まあなんとか助かった、と安堵のため息をこぼした瞬間、彼女は僕の甘い考えと裏腹に「じゃあ後で作るね」と言い僕に抱きついた。
ああ可愛い、女の子の香りがする。
でもチョコイラナイ。
『アレン?顔色悪いよ、どうかしたの?』
「えっ!?い、いえ別に」
『やっぱりチョコ要らなかったの……?』
彼女がしゅん、としおらしく萎んだ。こんな所も可愛いと思ってしまった僕は絶対末期だろう。
こんな愛しい彼女を傷付けたのは誰だ!!
「要ります要ります、死んでもいただきます」
ああ、さよなら現世。
ハッピーバレンタイン?
死因は君のせいというのならそれも悪くない、
fin
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