変人≠恋人
どん!
廊下ですれ違いざまにすごい量の資料をもった誰かにぶつかる。
もう相手が誰かすら分からない程の量の山が、うわぁ!という僕の情けない声と同時にばさっと資料が空を舞った。
というのは一瞬で、それからはせかせかと二人で資料の山をもう一度建設する。



「…すみません、大丈夫でした?」

『ああああすみませんこちらこそすみません!!』



早口な高い声だな。
資料から目を離し誰かの方に視線を向ける。



『どうかしました?』

「い、いえ何も」



多分、僕と同じ歳くらいの女の子。
科学班だろう、大きめの白衣が余計に彼女を小さく見せた。



『ありがとうございます、ウォーカーさん』

「いえ…あ、良かったら持っていきましょうか?」



すると彼女の頬は真っ赤に染まり、



『うへへへ、惚れっぽい性格なので放っておいて下さいね』



にこり、というよりにやにやとした笑顔をこちらに向けた。
こいつ…変態だ。
わりと可愛らしい雰囲気を持っているのにどうしてそんな表情するのだろう。

では、と彼女は自分よりも大きい資料を器用に運んでいった。




気にするなと言われれば、かえって僕の視線は自然に彼女へと注がれていた。



「アレンー、またなまえかぁ?アレンも変わり者好きだなぁ」

「はっ!?」



思わず声がうわずった。
その反応を見て歓喜する馬鹿兎の面を的にフォークを投げる。



「うわっ!ちょ、怖!!」



惜しくも当たらず後ろの壁に突き刺さる。畜生。
もくもくとパスタを口に運びながら彼女の背中を見つめた。

なんで(恐らく)変態のことばかり気にかかるのだろうか。
そんなこと考えててもやはり僕の瞳は彼女から逸らせない。

ラビの茶化した顔が腹立つ。
すると彼女が突然がたん!と音を立てて椅子を倒しながら立ち上がった。

食堂全体の空気が一瞬凍てつく。
しかし彼女は気にせずにふらふらと使用済みの食器を返しにいく。
彼女の顔は蒼白く、目は暗く落ち窪んでいた。



「わお!俺一瞬死人かと思ったさ!大丈夫かよなまえ…ってアレン!!」



気付けば僕は不安定に右に左に揺れる彼女の背中を追いかけ駆けていた。

やっと科学室の前で追いつき彼女の手をとる。
うぎゃお!という奇声と共に顔色悪い彼女が振り返る。



『ああ……ウォーカーさんですか。またそんなことして。もう私に気があると思っていいですか?いいですよね』



やっぱりなまえという生き物は変態なのかもしれない。
そしてそんな変態を好きに為ってしまった僕はもっと変態なのかもしれない。



「構いませんよ?」

『うふぉっ!?』



蒼白い頬が心なしか血色が良くなってゆく。
ああ可愛いなぁ、なんて考えてしまう僕は確実に何処かが可笑しくなってしまってるに違いない。



『う、お、あ……あ、じゃあまずは友達から』

「そこからですか」

『じゃあ親友、大切な人から。
あ、愛の告白の練習します、せーの』


(すきです)




変人が恋人に変わるまであと少し。