お願いサイケデリックガール
やばい。
俺は起きて5分という驚異の短さで顔面蒼白となっていた。
なにせこれは一大事なのだ。


歯が抜けた夢を、見てしまった……!


ああ……もうそれはそれは悪夢であった!
蕎麦を食べていたらつゆに何かが落ちて、よくみたら歯!!思わず叫べば全部抜けて向かいに座っていたなまえに爆笑される夢。

なんか思い出してたら腹が立ってきた。なに俺のこれ以上ない一大事を笑っているんだあんのクソアマめ。禿げろ。


しかしもっと恐ろしいのは、昔からよく言う、不幸夢は誰かに言わないと現実になるという言い伝え。

そんな恥ずかしい話を言う相手なんて居るわけがないだろう。俺は孤高を貫いてやって来た。
こうして無駄に高いプライドが邪魔をするのだ。
昔もこんな不幸夢を見たときもやはり誰にも言わずにいたら1週間もお腹を下した。
お陰で蕎麦なんて冷えるものも食べれない、ずっと五穀粥だった。
痛いし笑えないしムカつくし。

だから今度こそはなんとかしてそれを避けたい。



「……ああ、今日は任務か」



独り言はただ自室の空気に吸い込まれた。
今回の任務はそんなに難易度の高いものでは無く、簡単なAKUMA破壊のみ。

組み手は……そうだ、なまえだ。



あいつとはあまり馬が合わない。
廊下で逢えばいつもフェイントの掛け合いみたくなりなかなか其処を通らせてはくれないし、意見は必ずぶつかる。
下手すりゃモヤシよりもムカつくかもしれない。

あー面倒くせえ。



かちゃり、部屋を出た瞬間に何かに引っ掛かる。
鈍い音を立て扉が開けば。



『ちょっとー!!痛いじゃないのっ!』

「は?」

『私が廊下通ってた時に神田が部屋を出たからじゃんかっ』



なんという奇跡、偶然。
こういうところが馬が合わないってんだよ。馬鹿。
本当にいつもこいつとはこうなのだ。なんかいつもこんな事になる。



『しかも神田と任務だしさ』

「嫌なのはお前だけじゃねえからな」

『まーあそれはどうもすみませんね神田さん。歯抜けろ』

「今それは止めろ」



なんだ、馬が合わないんじゃなくて透視してるんじゃねえか?なんかもう超能力?サイケデリック?



「ほら早く行くぞ」

『わかってるよ』



差し出した手と繋ごうとした手が見事に交差した。



『なんで避けるの!酷い……』

「ちちちげえよ!!お前の手を取ろうと思って」

『動揺しすぎだよ神田くん、歯抜けろ』

「だからやめろって」



はや歩きでふたりで任務に向かうも自然とその手は繋がれていた。



『神田今日機嫌悪いね、なんか嫌な夢でもみた?』

「なんで分かんだよ」

『私超能力者だからね、単細胞のその単純思考くらい寝ながらでも分かるわ』

「死ね」



なんで一言二言多いんだよ。お前じゃなかったら確実に六幻の錆にしてやんのに。
なまえはぱたぱたと走りくるりとスカートをなびかせ此方へ向くと、



『……嘘だよ!神田に片想いしてるから分かるんだよー』

「ばっか、ちげえよ」

『え、』



馬鹿サイケデリックガール、この想いは予知出来ねえのか?



fin