本能ばかりでは無い

今日は何やら新年会をやるらしい。俺は嫌いだ、馴れ合いとか、そういう事が。
しかしその会が食堂で開催するなどというふざけたことをコムイが抜かしやがるから致し方無く俺は蕎麦を頼んでから談話室で待つことにした。
しかしその談話室でさえも人で混み合っている。だからこういうのは嫌いなんだよ、鬱陶しい。
唯一空いていたひとり掛のソファに座れば上から能天気な声が。



『うっはー!神田くんじゃあないですか、あけましておめでとうございます!』

「るせ」

『何さ!新年早々私に対しての初めの言葉は「るせ」ですか、否定から入る上にちゃんと発音出来てないし』

「う・るせえ!!」

『なにそれ何処の国の人?』

「……」



なんだよこいつは。俺の神経をどんな方法を使ってでも逆撫でしたいらしい。六幻で斬ってやろうか。



『……そーんな怖い顔しないのー、目出度い顔しなさいよ、恵比寿さまみたいな笑みを浮かべなさい』

「やへろお」



俺の頬をつねって無理矢理笑顔にさせようとするなまえに制裁でも落としてやろうか。
しかしそんなことは出来ない、惚れた女はその事を知ってか知らずか何処までも付け上がってきやがる。



『それより神田くん!なんでこんなに混んでるのさっ!!折角温かい紅茶淹れてきたっていうのに座るとこない!』

「新年会だろ、面倒くせえ」

『ええ!だからこんなどんちゃん騒ぎしてたんだ。アレン大道芸してるし、ラビは酔っ払って私にちゅーしようとしてくるし、リナリーはストリップしてるし』

「は!!」

『……見たかった?男の性だね。でも嘘だよー!一生盛っとけ馬鹿侍めっ』

「ちげえよ、兎がお前に絡んで来たって」

『ん?それは本当だよ、アッパーかまして来たけど』



なにしやがってるんだ、あんの馬鹿兎が。
あー、あいつにこそ六幻の錆にでもなってもらおうか。こいつが今まで俺にやってきたいらいらまで全部引き受けてもらおう。



『それより、ちょっとゆっくりしたいからソファ退いてよー』

「断る」

『紅茶ちょっと口移しであげるから』

「な、」

『うがいしてから』

「死ね」



ひどいー、と口を尖らすけども知らねえ。あまりその手の冗談ばっか言ってると犯すぞ阿呆。



『もういいよ、床座って飲むよ』

「好きにしろ」



わざわざ俺の前に座り込み、向かいの机で一人お茶会を開き出した。
なんて優雅な午後の一時、とかほざいているがBGMがこのどんちゃん騒ぎで良く言えるな、なんて変な感心をしてしまう。
こうしてみる小さな背中や、漆黒の髪は本当に可愛らしい、まあ口が裂けてもいう気にはならんが。

暫くして、紅茶から口を離して彼女は、『アレン連れてくる』なんてふざけたことを言い出し、それを実行しようと立ち上がろうとしたものだから俺は咄嗟に目の前に座り込むなまえの団服を六幻で踏んで制圧した。



『ぎゃふっ!!』

「行くな」

『え?でもアレンの大道芸すごいよ?今なら無料だよ?』

「いいから、行くな」



それでもまた立ち上がろうとする彼女の腰当たりをとらえると自分の方へ無理矢理寄せて膝の間に座らせる。
わたわたと慌てる彼女が愛しくて仕方ない。



「座りたかったんだろ?ソファに」

『だっ、ば馬鹿!!年中発情期め!』

「そうだが?」



にやり、思わず笑顔が漏れる。肩身の狭そうにもじもじと座るなまえの耳元で囁いてやれば頬を林檎にして俯いた。



「紅茶、口移ししてくれるんじゃないのか?」

『ほ、本当にすみませんでした神田さま』

「……ふん」



六幻を拾い上げてなまえを先に起こし、自分も食堂へ向かおうとすれば、団服の裾を凄い勢いで引っ張られてバランスを崩す。
からん、と涼やかな音をたてて六幻が転がる。
彼女が俺の真下にいる、つまるところ組み敷く形になっているのだ。



「な!」

『仕返しー』



なまえが目を細めてころころと笑う。俺自身の影が落ちていて、彼女の息がかかった。
このまま犯してもいいんじゃないか、と一瞬頭をよぎってしまった自分を恥じる。



「そういう冗談ばっかしてると、食うぞ?」

『仰せのままに?』



あはー、恥ずかしい!なんて言いながら顔を隠したなまえの手をそっとほどく。
意外にも彼女の頬は赤く染まり、何より艶かしい表情をこちらへ向けていた。
驚愕を隠せない俺になまえは目を伏せ、



『ちょっと悪戯しちゃおうと思ったら予想外に恥ずかしい……』

「っ!」



教団の馬鹿共は皆酔っ払い肩を組んで何故か「おさかな天国」を熱唱しており、ある種最悪の雰囲気だ。(……いや、ムードなのか?)
しかし誰も俺達のことは見ていない。
本当は今すぐにでも襲ってしまいたいとは思ったものの俺はそこまで下半身直結脳という程では無い、理性くらいは持ち合わせているつもりだ。
だが、



「……目、瞑れ」

『えぇ?…うん、』



なるべく優しく、触れるだけのキスを落とす。
ただそれだけで愛しさが一気に込み上げた。
真っ赤な顔で怒る表情でさえも。



『あ……そ、そのー、ちょんしか無かったじゃん!意気地なしー』

「やっぱり襲ってやろうか」



……訂正。惚れた女にも制裁をくらわすし、俺は本能のままに動く生物だ。


fin