おかえり僕のお姫様

※なんちゃって白雪姫パロ。こびと達の扱いがひどい





白雪姫はその美しさ故に悪い魔女に妬まれてしまい、死んでしまいました。





なーんて。


「阿呆過ぎるでしょうが、馬鹿」


本当に呆れる。なんでいつも貴方はこうなんでしょうか。
しかしもっと馬鹿なのは憎み口を叩きながらも涙をこぼして一方通行に恋心を抱いていた僕なんでしょうが。

僕はまあ下々の者のひとりで、彼女の側近としてずっと遣えていた。
姫はいつも正直者でご丁寧に悪戯には毎回引っかかってくれるし、嘘も面白いくらい信じる。
しかしその容姿だけは行き交う者が誰しも振り返るほど美しかった。



「で、なんで僕が……!」


そして僕達が調査隊として派遣され、彼女の死体を捜しているのだが正直言って想い人の成れの果ての姿なんて見たくないのが本音。
僕は森林担当なのだが、正直言ってこんな森で随分長い間放置されていては幾ら艶麗な彼女とはいえ死体の腐敗までは美しく着飾ることは出来ないだろう。大体この森暗いしじめじめと湿気が多いし怖いし怖いし!


ぐあー!
何処かで大きな鳥が鳴く声が響き渡り、


「ぎいゃぁぁああ!!」


見事同時に僕の叫び声と共鳴した。


全くなんだあの異常なサイズの鳥。そして逃げも隠れもしないと言わんばかりの派手な色遣い。
ありえない。ああありえない。何処のアマゾンだよ全く。
もう帰りたいです王。
此処に姫は居ませんて。
流石にこんなジャングル真っ青の無法地帯にか細い馬鹿な姫は来る筈無い。

……って。



「……うそだ」



一瞬この森に生えた茸の胞子かなにかで幻覚の症状でも起こったのかとも思ったのだが、これは確かに見間違いじゃない。
煌びやかな硝子の箱に据えられるのはまだ眠っているかのように安らかな表情を浮かべた姫はショーウィンドウに飾られた人形さながら。

思わず駆け寄り彼女を眺める。……やっぱり、姫君だ。
ありえないのだ。こんな暗い森に彼女が腐敗すらせずにこうやって居るのが。
しかも硝子なんて人工物、絶対誰かが手を加えている。

暫時、何も考えられないくらい睫毛が影を落とす閉じられた瞳を食い入るように見つめていたが急にどん!と後ろからなにかがぶつかった。



「ぎゃ!」

「なんだこの白髪ー!老人!」

「失礼な!僕まだ若いですよっ」



戦隊モノ並みのカラフルなチビ軍団が僕を睨み付ける。え、誰?ひょっとして姫の隠し子?

しかしその顔は幼さを残しておらず、……寧ろ貫禄というものが皺として刻まれていた。あれ、意外と歳いってる?



「ていうか貴様誰だー!」

「僕は此方の姫君の側近のひとりです。死体処理班に配属され任務として遺体を引き取りに参りました」

「ふーんそう。その冗談面白くない、28点」

「なんだよそれ!」

「だってまだ姫は死んでないものー」

「ほ、ほほ本当ですかっ!?」

「うんそうだよー。
姫はこの悪い魔女に渡された毒林檎を食べてこんなことに……!」

「ちゃっかり全部美味しく平らげちゃってるじゃないですかこの林檎」



こびとがひょいと出した細い枝は恐らく林檎のへたの部分だろう。
どれだけ毒の効能が遅いのか彼女の食い意地が異常なのか。
普通一口小さく口に含んであーれー、ってなるんじゃないんですか?まあこんなことに普通って無いですが。というか常識なんて無いですよね、毒林檎の咀嚼方法なんか。



「まあ大体王子がキスすりゃ目覚めるだろうから28点行けば?」

「なんですかその投げやり。というか貧相過ぎる渾名」

「だって僕ら全員やっても目覚めなかったもの」

「もういいお前ら全員死んでください」



ありえない!なんというはしたない奴らだ腹立つ。僕より先に全員やった、なんて!



「やるよ!やればいいんだろ!」

「頑張れ側近28点」

「煩いですよ、こびとたちは向こう向いてろ」

「目閉じといてやるよ、ほら」



そう言いながら瞳を閉じたこびと達は見事全員薄目でばっちり目が合った。
こいつらもし小学生ならコンビニの裏に落ちてるふやけたエロ本を嬉々として持ち帰っちゃうむっつりタイプなんだろうな。



「瞼ひくついてますよ。なんでそんなに見たがってるんですか変態」

「若気の至りだよ」

「若くないでしょ」

「いいから早く行けよ」

「…………」



彼女の端正な唇に視線をやる。ごくり、生唾が喉を鳴らせば後ろのこびと軍団も同時に固唾を飲んだ。
何をお前らまで緊張してるんだ。

ふうと深呼吸してそっと距離を縮める。深紅の膨らんだ唇に吸い込まれるようにキスを落とした。
ちょん、一瞬だが確かに彼女のやわらかさに触れる。

うわ、やってしまった!
有り得ないくらいの背徳感や後悔が襲うもそれより溶ろける甘さへの恍惚が勝ってしまってる自分が恥ずかしい。

暫く火照りが収まらなく、後ろでにやにやと効果音のつきそうな厭らしい笑みを浮かべたこびと共に制裁を落としてやろうと思ったが僕にそんな余裕なんて皆無。
するとその瞬間、彼女が柳眉を寄せ小さく身をよじって長い睫毛をしばたかせた。
余りに浮き世離れした美しさに、煌めく瞳が再び輝きを取り戻したことに、なんだかちょっと泣きそうになる。



「姫!?久しぶりです!ああ良かった!」

「んー……アレン?どうしたの?」

「覚えてないんですか!?」

「うーん。おばさんに林檎貰ったくらいしか。
というかこのこびとさん誰?アレンくんの隠し子?」

「違いますよ!いいから帰りましょう」

「アレン七つ子のお父さんなんて随分ハッスルしてたんだなー」

「だから違うって!」

「あははー、嘘だよ!ありがとうね」



後ろではやんややんやとこびとたちが踊り喜んでいるが、僕は笑う彼女の笑顔が懐かしくて、濡れるふたりの唇が再び引き合うように重なった。










後ろにあいつらさえ居なけりゃ良い雰囲気だったのに、なあ。



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