「久し振りじゃねェか」


食堂で一人食事を摂っていたサラはその声に顔を上げる。

いつも葉巻を二本咥えている男、スモーカーだった。

相変わらず低い声だったが何処か機嫌が良さそうに感じられる。

別に久し振りでもないが、昔に比べれば久し振りなのだろう。

スモーカーとは昔から仲が良く、友人と呼べる人間が少ないサラにとってスモーカーは唯一友人だといえる男だった。


「うん」
「ここ、いいか」


サラは空いている向かいの椅子を見た後、頷いた。


「お前がここにいるとは珍しいな」
「部屋にいると煩い奴が色々言ってくるから」
「ドレークか」


めんどくせェな、と煙を吐いた。

葉巻の匂いと食べ物の味が混ざる。

何だ、昼食を摂りに来たんじゃないのか。

スモーカーはここに来たにも関わらず葉巻を吸っている。


「調子はどうだ」
「良いよ」
「そりゃァ何より」


そう聞いて、素直に答えない奴だとわかっている。

だから顔を見に来たんだろう、とサラは思った。

煙草を箱から取り出して火を付ける。

この男の前で吸っても何も言われないから良い。

それからだらだらと昔のように話をした。

やっぱりこれと話をすると話の終わりが一向に来ないな、とお互い思う。

気が合うのだ。

傍から見ると恋人と思えるので、噂が回った事もあった。

部下からすれば喜ばしい事で、勝手にあの二人は付き合っていると今でも勘違いしている。

そんな事も知らずその二人は煙草を片手に話している。

遂に時計の短い針が三時を指した。

それと同時にある男がやって来た。


「…何をやっている」


ドレークだった。

何時の間にか誰もいなくなった食堂に良く響く。

スモーカーとサラは一時固まった事で会話は中断され、二人同時にドレークを見た。


「今何時だと思っているんだ」
「すまねェな、つい話が弾んじまった」
「…」


挑発するように放たれた言葉にドレークは手を握り締める。

スモーカーは席を立つとサラにじゃあな、と言って早々とその場を去った。

クソ、逃げやがって。

サラとドレークの間に流れる気まずい沈黙に痺れを切らしたサラは謝る事にした。

何をそんなに不機嫌になるのか。

今日の仕事は終わらせたし、別に誰にも迷惑など掛けていない。


「ごめん」


思っていないのが丸出しでサラは自分で笑いそうになった。

口の端が今にも上がりそうになり、必死で堪える。

すると予想外な事にドレークは何も言わず出て行った。

顔は見えなかったが大股で出て行ったので、サラはそんなに怒る事か?と。

やっぱり分からないな、ドレークの性格は。


「…くそッ」


腹が立つ。

ドレークは私室に戻ると机を強く拳で殴った。

一体自分は何に腹が立っているんだ。

別に時間の事など気にしていない。

サラが仕事を終わらせたのは知っていた。

では何故?

ドレークは記憶を再生する。

自分が食堂に入った時、あの二人は全く気も付かず、親し気に話していた。

まるで恋人同士だ。

サラのあんな表情、今まで見た事がなかった。

気の抜けた、女性らしい笑みを浮かべていた。

今の今まで自分が一番、サラの事を良く知っていると思っていたのに。

それが一気に崩れた。

あんな表情を見せるのはスモーカーだけなのか。

ドレークは何度も何度も、サラの表情を思い出した。


29 August 2013.
Masse


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