街が白一色に染まる12月。

クリスマスが近いからか街も人々も準備などで騒がしく感じる。

ここに出てきてのクリスマスは初めてだったから、心が踊りそうなのを必死で抑える。

やっぱり冬が好きだ。

行事に関係なく、私は昔から冬というものに惹かれていた。

試験も終わり、大学にはクリスマスの雰囲気が漂っていた。

毎年恒例のクリスマスパーティーが行われるからだ。

大学の広い中庭でみんな綺麗な格好をしてダンスをしたり、軽い食事をしたりするらしい。

友だちからそう聞かされてからずっと楽しみで仕方がない。

そして友だちと街へその日着るドレスを見に行こうと約束をした。

でもその前に一つ問題があった。


"だれ誘う?"


そう、相手。

そう聞かれた瞬間、私は一気に気分が沈んだ。

一人も思い当たるふしがなかったからだ。

ーーーいや、厳密に言うと一人は思い当たった。

脳裏に実験に取り憑かれている男がちらちら浮かんだけど、私は素早く取っ払った。

どう考えても今回ばかりは無理そうだな。

シャーロック、人混みに弱そうだし。

でもチャンスはあるかも知れないとその日研究室に行った。


「あー、シャーロック、」


あのさ、と固い口を無理矢理開くような感じで言おうとするとシャーロックがバッ私の方を向いた。

しかもすごく顔が悪相極めていた。

もっと作成練るべきだった!と遅すぎる後悔をする。


「行かないからな」
「…なんで?」
「嫌いなんだ。言わなくてもわかるだろう。今回ばかりは粘っても折れないぞ。あんなパーティー糞食らえだ」
「そこまで言うか」
「兎に角僕は却下だ」


…多分昔クリスマスの日悪いことでもあったんだろう。

ここまで拒否反応を見せられると幾ら私でも説得するのは無理だと思った。

そしてその日は終わり、とうとうイヴの前日まで来てしまった。

クリスマスパーティーはイヴとクリスマスの日の二日開かれ、友だちはみんなもう相手を見つけていた。

自分だけなんて虚しい、もういいよクリスマスは一人で家でテレビ見るから、と開き直った心の状態で受けた授業はまるで面白くなかった。

ペンをくるくる回してクリスマスの日は何処かへ出かけようかな、なんて考えたり。

長い長い授業が終わり、私はさっさと鞄に教材やらを詰め込む。

ぞろぞろと生徒が教室を出て行く中、私はぼんやり外を眺めた。

雪が降っている。

いつ見ても綺麗だ。

急に寒くなった教室から出ようと鞄を肩から提げた。


「やあサラ」


するとエドワードがそこに立っていた。
随分久し振りに見たと思う。

それもそうだ、あの日から私は席を一番前にしたから。

なんとなく会いたくなかった。

そんな理由で席を変えるなんてどうかしてるな、と思う。


「今、時間あるかな?」


緊張しているのか手が忙しない。

私はそんな様子を見ながら小さく頷いた。


「あの、もし良かったら明日のパーティー、僕と行って欲しいんだ」


金髪が外の曇った色で落ち着いた色に見える。

あの遠い記憶に上書きされているみたいで、なんだか。


「私でいいの?」
「!ああ、君がいいんだ」


そう言ってこめかみをかいた。

その仕草でさえも酷く彼と似ていた。

いや、私が勝手に脳内でそう仕向けているだけで、もっと彼は。

ーーー彼は

彼は?

彼はどうだったんだ?

思考が停止する。

もう私は彼を、ピーターを思い出せないでいる。

声も、仕草も、匂いも、全て上書きされたものしか思い出せない。

私の中で確実に彼が消えて行っている。

辛うじて覚えているのは笑った表情だけで、またそれも上書きされるだろう。

嫌だった。

でも何処かでそれを望んでいたのかも知れない。


「これ、僕のアドレスだから」
「あぁ、ありがとう」


電話待ってる、の言葉を残してエドワードは教室を出て行った。

どうせこうなると思っていた。

いつかは全てを忘れられる日が来ると信じていた。

これでよかったんだ、と私は言い聞かせて、綺麗な字で書かれたアドレスを見つめた。

ピーター、きっとあなたも私のことを忘れているでしょう。


13 October 2013.
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