ハッピーバースデー!と友だちの声が廊下に響いた。
待ち構えていたのか私がびっくりしている内に、にこにこした友だちに囲まれる。
…ああ、今日私誕生日だったんだ。
「ちょっと!なにボーッとしてんの?」 「本当!これは私からのプレゼントね」 「私からも。ハッピーバースデー、サラ」
次から次へと可愛いプレゼントが渡され、私は戸惑った。
家族に祝われたことはあるけれど、プレゼントを貰うのは初めてだったから。
「開けてもいい?」 「恥ずかしいから私のいないところで開けて」 「ティーンか」 「それ関係ないから」
誕生日ってこんなにいいものだったんだ、と友だちを見て思った。
移動中も授業中も視界に入るプレゼントにやっぱり嬉しさを隠せなくて、さぞかし幸せそうな顔をしていただろう。
手で口を隠して授業を受けるなんて可笑しい。
「君、誕生日なの?」
隣の席の人がそう言った。
ああ、いつもこの授業の時、ここに座ってる人だ。
多分、プレゼントを見てわかったんだろう。
なにか迷惑かけたかな、と考えが過る。
「うん」 「そうなんだ。お誕生日おめでとう」
金髪にダークブルーの瞳。
フッと綺麗に笑った表情が酷く昔の幼馴染みを思い出させた。
ーーーピーターに、
それによって私は反応が遅れ、持っていたペンを床に落としてしまった。
拾おうとすると私より先に彼がペンを拾った。
「はい」 「あ、ありがとう」 「僕はエドワード・べレスフォード。君は?」 「えっ?」
自分が動揺しているのがわかる。
勿論目の前の人に対して。
ただ名前を聞かれただけだ、早く答えろ私、と脳が指示を送る。
何故か名前を言いたくなかったのは気のせいだと。
「サラ・バラデュール」 「僕のことはエドワードって呼んで」
照れくさかったのか前を向いた横顔もとても、似ていた。
どうして今まで彼のことに気付かなかったんだろう。
心の底に沈めていたなにかが漏れ出しそうで、思わず息を呑む。
私は返事を返せず、素早く前を向いた。
もうプレゼントは視界には入って来なかった。
授業が終わると誰よりも先に教室を出た。
席を立つ時、彼が私の方を見たけれど話しかけられたくなかった。
綺麗な模様の紙に包まれたプレゼントを抱きかかえ、重い足取りでシャーロックがいる研究室に向かった。
とても頭の中を真っ白にしたい気分だ。
「…何だそのガラクタは」
そう言ったシャーロックはいつもの調子で顕微鏡に向かっていた。
私もいつものように振る舞う。
この人工的な匂いはいつも私を冷静にさせてくれる。
「わかってるくせにー」 「わかってる」 「シャーロック、プレゼント貰ったことないもんね」 「いつ誰がそんなことを言った」 「え?推理」
シャーロックが鼻で笑った。
私はいつも座る椅子に座り、これから随分と暇になるからプレゼントを開け始めた。
"僕はエドワード・べレスフォード。君は?" "僕はピーター、ピーター・ギラム。君の名前は?"
どうしてこうきっかけがあると昔のことを思い出させるのか。
全く嫌な気分だ。
ーーー心臓が今にも握り潰されそうで。
「サラ」 「ん?」 「誕生日だっていうのに嬉しくなさそうだな」 「そんなことないよ。推理しないで。どうせ当てられない」 「ふん」 「ほらね」 「黙れ」
もし全部シャーロックに言ったら馬鹿にされるだろうなあ。
でもその方が楽かも知れない。
だけどこれは誰にも言えないことだから楽にはなれそうにない。
今どこにいて、今生きているのかすらわからない彼との唯一の約束だから。
本当馬鹿みたい、と少し笑った。
「シャーロック」 「…なんだ」 「お誕生日おめでとうって言って」 「頼むものじゃない」 「いいじゃない。後シャーロックだけだもん」 「あいつらと一緒にするな」 「早く」
そしたら凄い早口でごにょごにょとハッピーバースデーと言った。
可笑しくなって一人腹を抱えて笑っているとシャーロックに怒られた。
「帰れ!!」 「録音しておけばよかったー。残念だ」 「言った僕が馬鹿だった!!」 「でも嬉しいよ?ありがとう」
ふん!もう知らない!と私に背中を向けたシャーロックが酷く可愛く見えた。
友だちから貰ったプレゼントよりも可愛かったのは口が裂けても言えない。
10 October 2013. Masse. |