「シャーロックー」
「」
「シャーロック・ホームズ」
「」
「オイ」


いつものように研究室で手を動かしているとサラがやって来た。

しかしそれは二時間前。

ここに来て一時間は課題や読書をしていたが飽きたのかこの小一時間ずっと独り言を言っている。

それに応えて欲しいのか欲しくないのかわからないので僕は無視している。

でも最後放たれた言葉は返事をして欲しいということだろう。


「また僕に頼みごとか」
「よくわかったね!」
「見ればわかる。しかし却下だ。この前、つい一昨日、君の要望に応えた。だから帰れ」
「えー」


そんなことの為に二時間いたのかと思うと本当に目の前の人間が馬鹿に思えた。

今回が初めてじゃないが。

しかしこの馬鹿はよくわからない人間の類に入っている。

何が気に入ってここにいるのか。

実験をしに来た訳でも、興味を示した訳でもない。

僕目当てなのがわからない。

おかげで廊下で会うとずっとついて来る。

一体なんなんだ、と聞けばただ僕と話したいだけだと言う。

よくわからない人間を扱うのは苦労する。

他の人間は僕をやりにくく扱うが、僕はサラを扱うのがやりにくい。

そしてそんなサラと一緒にいる自分はなにも感じない。

別に面倒とも思わない。

だからこの前夕食を食べに行った。

サラの話すことはそう面白くなくもないからか。

それだけの理由で。

わからない。


「シャーロックって映画とか嫌い?」


ずっと言いたかったこととはそれか。

いや、正確には僕と映画を観に行きたいんだろう。

何故こうも最初に僕を誘うのか。

他の奴らと行けばいいのに、と手を止める。

好きと言えば早速連れ出されるだろう。

しかし嫌いと言ってもなんだかんだ言って連れ出されるだろう。

考えても無駄か。


「なに観るんだ」
「うーんとね、ちゃんと調べてきたんだよ」


メモなどを引っ張り出して来るかと思うも次々に訳のわからない言葉を話すから僕は使った物やらを片付け始める。

題名を覚えて来たのか目の前の人間は。

如何にも期待しているのがわかる。


「サラが選んだやつでいい」
「えっ一緒に行ってくれるの?」
「…」
「やったー!やっぱり優しいねシャーロック」


優しい、の言葉に突っかかる。

僕の、どこが?

他人と会話するのも嫌で、関係を築くのも嫌で、なにもかも拒絶していた僕のどこが。

サラと会った時いつもの通り僕は簡単な推理をして不機嫌にさせた。

しかもあの時はいつもより機嫌がよくなかったから次々と言葉が出た。

そして案の定怒ったと思えば次は謝ってきた。

前例がなかった。

その日からよくわからない人間との距離が近くなった。

友人とはまた別のなにか。

そのなにかが未だにわからない。

答えが出ない。

数学のように、全てに答えがあればどれだけ楽か。


「シャーロック」
「?なんだ」
「またなんか難しいこと考えてたでしょ。今はそれ中断ね」


そして脳はシャットダウンする。

サラにそう言われたらなにも言えなくなる。

頭で"その答え"を探していたが、"その答え"の元となるのは目の前にいるじゃないか。

考えるのはまた今度だ。

そしてまた距離が近くなった。


24 September 2013.
Masse
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -