凍るような寒さの中僕は一人街を歩いていた。

勿論目的はサラの家に行くこと。

サラに会って、話をする。

たったそれだけのことだ。

たったそれだけのことなのに、さっきからそれを念じている。

自分でも一体何の話をするのか、全くと言っていい程わかっていない。

しかもそれ以前に僕と会ってくれるかどうかもわからない。

こんなに不安になったのも、怖くなったのも今までになかった。

あの日から時間が止まっている。

早くこの時間から逃れないと、一刻も早くサラに会いたい。

真っ白な道を一人ただ只管に歩く。

とても長い時間だったと思う。

今にも頭が破裂しそうだ。



***



立派な一軒家が目につく。

どっしりとした重い雰囲気の作りの家。

ーーあれがサラの家だ。

前はよく僕がここまで送っていたから間違える筈もない。

僕とサラでよく出掛けた日のことを思い出す。

僕は一度その場に足を止めて力無く手を握り締める。

全て過去になって仕舞う。

ーーお願いだ、出てくれ。

僕はドアノッカーを鳴らした。

そして僕のその願いは簡単に破られた。


「…」
「…」


出て来たのはエドワード・べレスフォードだった。

しかしそのことに驚いたのは僕だけだった。

相手はまるで僕がここに来ることを知っていたかのような顔で平然とそこにいる。

こいつは僕のことを読んでいる。

そこでやっと足元から伝わってくる雪の冷たさを感じた。

同時に胸の底が冷めた。


「また殴られに来たのか」


フッと笑ったが目は真剣だった。

家の中を全く見せない目の前の男に僕は返事も何もしない。

何でこういう時に僕の脳は働かないのか。

観察しろ。

観察しろシャーロック・ホームズ。

息をするように相手を読むんだ。

そう思っても何か別の感情でそれは阻止される。

感情は怖いものだ、シャーロック、振り回されるな、


「サラはいない」
「…」
「いても追い返されるのが、」
「黙れ!」


僕が急に声を上げたことに驚いたのかそいつは眉を顰めた。

僕はいつの間にか息を荒くしていた。

いつもの僕は何処に行った、声を上げるなんてただの子どもじゃないか。

サラの、あの傷ついた表情が思い浮かぶ。

ーークソッ、何でこうも上手くいかないんだ。

僕はギリッと歯を食いしばってそいつに背を向けた。

早くここから立ち去りたかった。


「よく今までサラに相手されていたな。不思議だよ」


その言葉に足を止めそうになるが僕は背を向け続けた。

何であいつがいるんだ。

何でサラの家を知っている。いつ知ったんだ。

あいつは僕とサラとの関係が完全に途絶えたことを言いたかったのか?

ーーそんなこと、言わせない。

あいつに取られてたまるものか。

サラは僕が見つけた唯一の。


12 December 2013.
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