サラの、あの傷ついた表情が忘れられなかった。

いつもは僕の嫌味も笑って流すのに、昨日は酷く悲しそうに涙を流していた。

あんな姿、初めて見た。

だから僕も動揺して、咄嗟に謝ろうとした。

今までにこんなこと沢山あったし、それで大抵皆僕から離れていった。

だから謝ろうとした。

離れて欲しくないと思ったから。

君までも僕を一人にするのか、僕は君を傷つけたくて一緒にいた訳じゃない、と。

頬を伝う涙を止めるのにはどうしたらいいんだと手をサラに伸ばしかけた時、はっきりとした声で、自分には関係ないと言われた。

その言葉で僕は今までの動揺が消され、僕の伸ばしかけた手はいつの間にか強く握り締めていた。

ーーそれもそうだ、君が誰となにをしていようと関係ない。

サラと僕との関係がそこでわからなくなった。

距離は確かに近い筈だったのに。

それは僕も感じていた。

感じていたのは僕だけか?

君は僕に対して何も思ってはいなかったのか?

あいつより僕といた時間の方が長いのに?

何に対しての怒りかわからないものが爆発しそうになった。

そしたらあいつがやって来て僕を力一杯殴り飛ばした。

起き上がることなんて簡単だった。

起き上がってあいつを殴り返すことなんて簡単だった。

なのにあいつの顔を見たから、出来なかった。

ーーああ、本気でサラのことが好きなんだな。

勉学やスポーツに励んでいる時よりも増して真剣な顔つきで僕を見下ろしていた。

こいつに取られてしまう、と思った。

わかっていた、僕がサラを好きなことくらい。

サラ、と名前を呼んだ声は自分でも思う程に情けなかった。

もうサラはあいつに連れて行かれてしまう。

これで終わるなんて嫌だった。

好きだったんだ、僕の思考をいつも乱して、こんな僕とでも楽しそうにいる君が。

僕を見てくれたのは君だけだったんだ。

行くな、とサラに向けた言葉は呆気なく周囲の騒ぎに呑み込まれた。

サラは振り返らなかった。

追いかけることを選ばなかったのはこれが完全なる負けだということがわかったから。

僕が子どもだったんだ。

このことが余りにも大きかった。

サラを傷つけたし、自分も傷ついた。

だからその時サラがもう一度戻ってくるなんて考えなかった。

でも今はまるで逆のことを考えている。

このまま終わるなんて嫌だ。

サラも僕もこのまま終わることを望んでない。

僕の言ったどの言葉がサラを傷つけたのか何回記憶を再生してもわからない。

だけどもう一度サラに会いたい。

会って、謝らないともう二度とサラに合わせる顔がない。

君を笑顔に出来るのは僕だけだ。

時間的にはもう25日で、窓から見える街が無駄に光っている。

一年で一番嫌いな日も、好きになれるだろうか。


17 November 2013.
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