人間の臓器を切ったのはこれが初めてじゃないのに、いつもまるでこれが初めてという感覚に悩まされる。
手術室を流れる能天気な音楽なんて耳に入ってこない。
全くの無音だ、意味がない。
唯一機能しているのは鼻と目と指先。
肺も呼吸するという機能を忘れたみたいに停止している。
指先は冷たく、けれど身体が冷たくなることはない。
そして、嗚呼、生臭い。
足はただの二本の棒、首は酷くずっしり重い。
後頭部は透けたようにとても軽い。
空っぽだ。
なにも考えず、なにも感じることはない。
ただ手を、指を動かす。
機械のようで機械ではない。
完璧のようで完璧にはなれない。
「はい次」
助手が損傷部分を言う。
はっきり言って切りがない。
今まで勿論救えなかったことも何度もあった。
勿論悔しかった。
私の技術が足りなかったのでは。
もっと早く手術出来たのでは。
切りがない。
親族の涙、涙、涙。
切りがない。
人間の死。
切りがない。
一人の人間が生きれるのはたかが100年あるかないか。
私が切り刻んでいる間にも人間は生まれ、死んでいるのだ。
「馬鹿馬鹿しい」
そんなこと一々考えている暇があったら寝よう。
これとは死ぬまで付き合わなければならないことだ。
はぁ、とため息を吐く。
殺す側に立ったらどれだけ楽か。
海軍も海賊も結構なことだ。
この世界は、私や誰かが願う平和な世界になど何年経ってもならないのか。
もうその答えが出ていたとしたら私はどうするのだろう。
…もう寝よう、疲れているんだ。
5 August 2013. Masse
暗すぎたか?(焦).
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