何故お腹も空いていないのに。

はぁ、と目の前でガツガツ食い物に食らいついている相手に聞こえるように私はため息を吐いた。

また上司に窓の修理を頼まなければいけないじゃないか。

しかも有難いことに目の前の奴は手を翼に変えられる能力を持っているのでこれが初めてではない。

そんな能力のおかげで私達は市民の注目の的だ。

はぁ、と何回目かわからないため息を吐く。


「食べないんですか?有名ですよこの店」
「知らん」
「そうですか。あ、すいません、コーヒーください」


ほら、店員びびってるから。

この島でラフィットを知らない人は殆どいない。

ずっと殺し合いしてるしね、街のど真ん中で。

そんな奴と今一緒に食事している訳だ私は。

すると、ここからあまり離れてない所から大きな爆発音が聞こえた。

一気に店内が騒がしくなる。


「ほら、仕事よ」
「何故このタイミングで」
「文句言ってられないでしょ」


はい、とステッキを渡す。

今からこれで人を殺すのかと思うと気味悪くなった。

静かに席を立ったラフィットに客の視線が移る。

軽い足取りで店を出るラフィットを見送り、店員が持って来てくれたコーヒーを啜った。

自分の食事を邪魔されたからさぞかし不機嫌だった。

今日の海賊は運が悪い、と思いながらおどおどしている店員にこの店のおすすめを頼んだ。



***



三十分もかからなかったと思う。

全身返り血で店に戻って来た。

もうそれは人間ではなく悪魔だ。

保安官じゃなかったんだ悪魔だったんだ、と考えていると店にいた客や店員が逃げ出した。

ずずっと冷めたコーヒーを啜る。


「怪我は?」
「ありません。街が少し破壊気味ですが」
「少しっていうか大分ね」


ふーっと息を吐き、力が抜けたように向かいに座った。

私は席から立って、店の厨房から水とタオルを持ってきた。

見るとラフィットは残りの食べ物を凄い勢いで食べていた。


「後でシャワー浴びますよ」
「血みどろでオムライス食うな」
「私が頼んだコーヒー飲みましたね」
「コーヒーくらい淹れてあげるからじっとしてて」
「食べにくいです」
「オムライスは逃げない」


良く働く口だ、と思いながら強めにタオルで顔を拭いていく。

本当、お前は子供か。

あれ、なんで私が一々こんなことしてあげてるんだ?


「痛いです。もっと優しくしてください」
「知らん」


顔と手が綺麗になったところでポイっとタオルをテーブルに投げた。

そしてそのまま店を逃げるように出た。

気に食わない。


4 August 2013.
Masse


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