行く宛もなくただ船を待っていた。
寄せる波が、この時間は無駄だと言っているようだ。
今、私に出来ることは少ない。
胸に空いた穴にこの濁った水を入れたら楽になるだろうか。
いや、せめて綺麗な水にしてくれと静かに笑う。
強い日差しが海水を照らし反射して私の目に入る。
私は長いため息を吐いた。
すると一瞬、その日差しがなにかに遮られた。
見上げても、飽かず光が見えた。
「サラ」
コツコツと靴の音が後ろから聞こえ、男が私の名前を呼んだ。
酷く、優しい声で。
私は笑った。
到底この男には似合わない声だと。
「すいません、遅れました」
これが夢だったら、振り返ると覚めるのだろうか。
酷い夢だ、もう一層のこと振り返ってやろう。
ここで一生待つのは性に合わない。
「待ちくたびれた」
遥かに待った時間が長かったのは私じゃないのに出たのはそんな言葉。
二年も経っているのに自分はなにも変わらない。
「私と海に出ましょう。あの日言った事は変わりません」
世界を見てみたいと思えたのはラフィットが傍にいたから。
傍にいてくれたから。
私はやっと、見つけたんだ。
私の胸に空いた穴には濁った水ではなく、
「喜んで」
愛だった。
私は振り返りもせず、彼に身を任せた。
(なんで保安部だけ無事なの?) (置いておくのも良いかと思いまして) (…気に食わん) (何がです) (思い出を大切にしてるところが) (…) (笑うな)
8 August 2013. Masse
完結しましたが短編で続き的な物が出てくると思います. こんな短期間で完結するとは(笑) 勢いって怖いです. 読んでいただきありがとうございました.
|