あの日から大方二年が経った。
月日とは恐ろしい物で、自分の気付かない内に進んでいる。
この島での生活は生きている心地がしなかった。
病に呑まれるとはこういうことかも知れない。
私は逃げるように、港に待たせてある船に乗った。
あの日あの時ここであったことが今では夢のようだ。
私の狂っていた脳が勝手に創り上げた物だったのではないか。
きっと、そうだ。
あの時見た空や海が濁っている。
濁りが、私のなにかに浸透していく気がした。
夢見てたんだ、昔は。
昔は、彼が待ってくれていると信じていた。
今ではもう、そんな不確かなことを信じている程、私は子供ではなかった。
***
一変した故郷に足を踏み入れた。
港には船の残骸、あんなに賑わっていた市場が跡形もなく、異臭が私の鼻を突く。
驚いたことに、そこに私の故郷などなかった。
まるでここで戦争が起きたと言わんばかりだ。
私は地面を覆っている瓦礫をかわしながら保安部に向かった。
もはや海に沈んだのでは、とも思った。
国が、これだけやられていてはそう思うのが自然だ。
しかし私の予想は大きく外れ、保安部は私の記憶通りの姿で残っていた。
大きな傷一つなく、相変わらず古びている。
「すみません」
私は建物の瓦礫の上に腰掛けているお年寄りに声をかけた。
寒いのか焚き火を炊いて、よく見ると所々に子供や大人が沢山いた。
「この島はどうなったんです?」
お年寄りは私の顔を見るなり、この島の人かと聞いた。
それに頷くと、いくつもの新聞を掻き分けて手渡してきた。
「保安官の一人がこの国を破滅に追い込んだんだよ」
大見出し記事には保安官追放と書かれてあり、写真には流石の私でも目を見開いた。
「…彼が一人で?」 「あぁ、訳を聞いたら何も答えなかったらしい。もう半年前の事だがね」
その言葉に曖昧に返事をする。
とんでもない男だなんて、もうわかりきっていたから。
昔からだ、私があいつの考えていることなんてなに一つわからない。
でも一つ言えることは、
「元気でなにより」 「…あなた、知り合いか何か?」
昔、その男と好かれ合ったんです、とは言わなかった。
でも相変わらずだなとわからないように口の端を上げた。
そんなところに、私は確かに惚れたんだった。
待つのに疲れて、ひと暴れしたんだろう。
あいつはあいつで生きているんだと。
「いいえ、会ったことありません」
新聞をお年寄りに返して、私はもと来た道を戻る。
今更、人助けって柄でもない。
さようなら、故郷。
結局私は生きる意味を見つけられなかった。
8 August 2013. Masse
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