酷く、懐かしい夢を見ている。

私がこの世に生まれる瞬間と、私が言葉を発するまでを。

父親は眩しすぎる程の笑顔で私の名前を呼び、母親は暖かすぎる程の愛情で私を育てた。

母親の腕に抱かれている私は幸せそうだった。

ずっと、この夢を見ていたい。


お母さん、


けれど私の足は全く動かなくて、さっきからずっと誰かが私の手を握っているのだ。


私やっぱり戻らないと、


その手は真っ白で、私の大切な、



***



そこで夢は中断された。

鼻につく独特の匂い。


「サラ?」


見慣れた真っ白な天井。

ここは保安部の医務室だ。

私が医者として担当していた場所。

夕方なのか薄暗かった。


「…ラフィット」
「気分はどうです」
「元気よ」


あぁ、意識が飛んだのか。

でも助かったんだ。

私はそう言ってラフィットに笑いかけたら、私の手を握っていたラフィットの手に力が入った。


「私が、あと少しでも遅れていたら助けられませんでした」
「はは、カナヅチだもんね」


慌てたラフィットの顔を見てみたかったよ。

でも私を助けてくれたことが凄く嬉しくて。

この手をずっと握ってくれていたことも。


「私を検査した?」
「えぇ、」


脳に異常が見つかりました。

ラフィットの顔はシルクハットで見えないまま。

私は思った。

そうか、これが節目なんだと。


「医者がなにやってんだか」


ぎゅっと力を振り絞って握る。

意識が飛んだのが手術中ではなくて良かった。

最後までやり遂げたんだ、私は。


「医者に診てもらわないとね」
「少し、外に出てきます」


出て行く際になにか言いかけたけれど、ラフィットは押し黙っているようだった。

それからラフィットは戻って来なかった。


「本当に情けない」


そう自分に言って、泣いた。

いい歳をした大人が笑える。

別に病気のことなんてどうでもいい、ただ、心のどこかで一人になることを恐れている。

誰か、傍にいて、と。


6 August 2013.
Masse


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