月日が過ぎて行く程に私の思いや欲望が大きくなる。

それは私の放つ炎よりも、この世の何よりも熱い。

そしてその勢いは止まる事を知らぬ。

でもあの女は私を見る度、私とさようならをしたいという顔をする。

恐怖と怒りとが入り混じった、何とも言えない、良い顔で。

その美しい顔をずっと見ていたくて、私はあの男を殺さなかった。

頭や手を使わなくとも簡単に首を刎ねる事なんて出来たが。

少しの希望が見えている時の女というのが私は好きだったのだ。

誰でもいい。

そんな女をずっと今まで探していたのかも知れぬ。

そして偶々運良く出会い、そして直ぐに捨てるつもりだった。

毛頭本気ではなかった。

あの女は私と違い簡単に死んで、寿命も短い。

この私と釣り合わぬ。

しかしいつの間にか私は沼にはまって仕舞っていた。

あの男から奪い取った瞬間から、私はあの女の虜になっていたのだ。

そしてもう戻れそうにない。

私は不覚にもこの女を愛して仕舞ったのだ。


「此方に来い」


今ではすっかり長くなった髪の毛が揺れる。

手を差し伸ばせば、女の一回りも小さい手が恐る恐る私の手を取る。

冷たい手に、如何にもこの女の命が擦り削られている事がわかる。

死なせはしない。

だが助ける事もしない。

この女が何を見て何を思うのか、只それを見るだけで良いのだ。

だがそれはいつも同じものである。

そこでぼんやりと私の頭にあの男の顔が浮かび上がるのだ。

溜息を吐くように熱い炎を出す。

私が怖いのか女は私に強くしがみ付いた。

今直ぐにでも殺せるものを。

もし私がお前を放すと言ったら、お前は迷わずあの男の元へ行くだろうな。

だがそれは叶えられそうにない。

でもどうか、手放さないで欲しいとも思うのだ。


「あの男の元へ」


私は自分がこの女の事を分かっていないのをわかっている。

だが私はどうしてもこの女が欲しい。

あの男の前でどんな風に笑うのか、どんな仕草をするのか。

私の知らないこの女の秘密を見たい。

この世の誰もが秘密を持っている。

誰もがその秘密を隠す事が出来るだろうか。

誰も出来はしないのだ。

この女の持っている物を全て、見たい。


「あの男の元へ、帰りたいか」


その驚いた顔も良い。

今見えた希望を叶えるか潰すかは私次第なのだ。

これ程嬉しい事はない。

その顔が絶望に陥った時、この女は私にどんな顔をするのか。

想像する必要もない。

一度この感情を冷まさなければ。

我を失いそうになっている目の前の女を殺して仕舞いそうだ。


6 January 2014.
Masse


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