4月。

幸運な事に校庭の桜は満開で春を感じさせる。

また新しい一年がここで始まるけれど、来年ここを卒業する。

ここで過ごすのも最後だ。

そう思うと少しこの季節が嫌になった。


「では、授業を始めます」


本鈴が鳴り、静寂な教室に先生の声が響く。

みんな変わったと思った。

昔はあんなに騒がしくて、先生に叱られっぱなしだったのに。

大人に一歩ずつ近付いている現実に目を瞑りたくなった。


***


「霖、一緒にお昼ご飯食べよ」


奇跡的に三年間同じクラスになった瞳とはずっと一緒にいた。

お昼ご飯を食べる時も、移動する時も、休み時間も。


「ねえねえ、霖の隣の席の男子格好良くない?」
「は?」
「は?じゃないわよ。中禅寺くんだよ。真逆、見てないとか言わないでしょうね」


まあ良いわ、と瞳はジュースを飲んだ。

瞳が大好きなココアだ。


「さり気なく見てみるよ」
「うん。良かったわねえ」
「ーーー瞳は榎木津先輩の事、好きだったんじゃなかった?」
「うん、仲良いよ」


少し嬉しそうに笑ったのを見逃さなかった。

付き合ってるのかは知らない。

聞いても上手く誤魔化すから聞かなかった。


「あ、思い出した!今日放課後試合あるんだ、だから掃除変わってくれない?」
「良いよ」


瞳はバドミントン部の部長をしている。

私は多忙な瞳とは違って帰宅部だから断る理由もない。

それから予鈴まで話をした。


***


授業が終わり、瞳に別れを告げ、倉庫から箒を取る。

先生がいない事を良い事に窓から外の景色を見ながら掃く。

三階なので運動部の掛け声が遠くに聞こえる。

この一年、どんな年になるんだろうか。

自分の性格からしてまた呆とした一年になるんだろうなあ、と対して掃いていないのに机を運び始めた。

教室を出る時、自分が最後だったから戸締りを確認した。

その時ふと黒板の日直に目が移った。


中禅寺・鳴神


目を疑うにもそこにはっきりと書かれてあるものだから一人たじろぐ。

何で初っ端からこの組み合わせなんだ。

そして昼休みの瞳の言葉が蘇る。

ーー中禅寺くんだよ。

五限の予鈴が鳴った時、教室に中禅寺くんが入って来たのを見た。

ーーねえねえ、霖の隣の席の男子格好良くない?

気難しい人、なんだろうと思ったくらいで他は何も思わなかった。

私は教室の鍵を閉め、職員室に足を向けた。

これがすべての始まり。


10 September 2013.
Masse


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