ここは、どこだ。
子供が発する様な言葉だが、全く見覚えがない。
どうやって来たのかも、何故ここにいるのかも。
見渡す限りの草原に目を疑う。
歩き続けても、何も変わらない。
ケータイを取り出そうにも手が動かないし、声も出ない。
薬でも飲まされたかと思っていると、遠くから誰か歩いて来るのが見えた。
誰かはわかる、サラだ。
だが声が出ない。
シャーロックと呼んだ声に応えなければ、だが手が動かない。
僕は唯突っ立ったままで、サラが近くに来た。
顔色が悪かった、美しい短い黒髪も今はそう思わない。
どうしたんだ、酷く痩せている。
何があったんだとも言えず、サラは力なくその場に崩れる。
僕も慌ててその場に膝を付くが、地面は泥沼の様に足を沈ませていく。
ーーーサラ、
呼んだのに、彼女は振り向きもせず、どこか遠くを見て。
お願いだ、僕を見てくれ。
独りにしないでくれ、
「シャーロック!」
「!」
直様光が目に入り、また目を瞑る。
嗚呼、夢だったのか。
目を開ければ、いつも通りのサラが僕の手を握っていた。
「悪夢でも見たの?心配したわ」
そう言って僕の頬に触れるサラの瞳に、僕が映っていた。
手を握り返すと、サラが驚いた顔をした。
「相当、僕は君に惚れたみたいだ」
「なにそれ」
悪夢に魘されてた人が言う言葉?
それもそうだ、今日も君は美しいよ。
いざとなったら僕は命をも君に捧げるだろう、だから僕を見ていてくれ、愛しいひと。
10 February 2013.
Masse