short | ナノ
あの人がここを去ってから2ヶ月と言う、私にとって長い月日が過ぎた。

今私はあなたがいた少将の座にいますよ、と嫌味気にあなたに言ってやりたい。

それすらも叶わないなんて世界は、広すぎると。


「…サラ、いるか」


慣れていなさそうな、えげつないノックが静かな部屋に響く。

大佐の、スモーカーだ。

ここで私を良く知っているのは今では彼くらいだろう。

久しぶりだ、彼が私の部屋に来るのは。

2ヶ月以上も来なかったのに。


「…スモーカー、」

「久しぶりだな」


彼はなにも変わっていない。

2ヶ月と言うものはそんなに短いものなのか。


「コーヒーで良いですか?」

「あぁ。
しばらく来なかったが相変わらずお前も敬語だな、俺の方が下だってのに」

「でも歳は上じゃないですか」

「…嫌味か」

「違いますよ」


彼が来た瞬間、わかった。

あの人のことについて、私が相当落ち込んでいるんじゃないかと。

そう彼は思って、わざわざ来てくれたのだ。

本当に優しい男だ、彼は。


「やっぱり少将ってもんは忙しいのか」


スモーカーは書類の山を指差して言った。


「あぁ、これは溜まってた分で、」

「泣いてたのか」


思わずコーヒーを落としそうになった。

反射的にスモーカーを見たが、彼は何1つ表情を変えずに。

わかっているくせに。

彼の悪いところはわかっているくせに聞くことだ。

私がまだあの人のことを想っていることを。


「…そんな訳ないじゃないですか」

「そうか」


表情を見られないように書類を見るふりをして俯いた。

なんでこう、上手くいかないのかこの世の中は。

この哀しみが何事もなかったかのように去れば良いのに。

一生のお願いだから、あの人を忘れさせて。


「なぁ、サラ。
1つだけ聞きたいことがある」

「…」


もう涙は出て来ない。

泣き疲れたよ、もう疲れた。


「もし俺があいつを殺したら、どうする?」


1人で見開いた。

でも良いかも知れない。

あの人を忘れることが出来るのならば。

別になんとも、戸惑いなく言い放った言葉に私は。

そっと目に手を当てた。

いや、それじゃあ益々忘れられなくなる。

そして私はスモーカーに素直に答えた。

でも後で、彼には酷いことを言ってしまったなと。


「あなたを…殺すかもしれません」


しかし彼は大きく煙を吐いた。

まるでそうか、と。

でもその冷たい仕草がなによりも新鮮に感じた。

彼には1つも嘘がない。

それが私にとって励みだった。

ちゃんと、現実を見ろと。


「今はゆっくり休め。
いつかはあいつと会えるだろ」
バタンッと扉が閉まったと同時に私は泣いた。

泣いて泣いて、今この時だけは、私が死ねばあなたは振り返ってくれるかな、なんて考えたりもした。


(もう1度あなたに会えたなら私は死んでも良いのだから)


5 May 2012.
Masse

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