薬草の調達に市場へ行こうと思ったら、サンタンジェロ城の門に誰か立っていた。
見覚えのない人で、誰かを待っているのか、それとも困っているのか。
背中しか見えないその人に私は声を掛けることにした。
よく見ると全身黒尽くめで、私は普通の人ではないと思った。
「何かお困りでしょうか」
振り返ったその人は顔に白い仮面をかぶり、鼻は長くとんがっていて、目は黒い硝子で見えない。
肌が全く見えないその人は独特な雰囲気を出す人で。
しかも背の高い人だったから少し、怖かった。
「君は?」
「ここの軍医をしている者です」
そうか、と何か考えている様な仕草で被っている黒い帽子を整えた。
手に持っているのは、大きな四角い鞄。
腰には、…注射器?
しかも全部液が入っている。
この人も医者なのだろうか。
「私は別に困ってなどいない」
「そ、そうですか」
表情が伺えないからより冷たく突き放された空気だった。
何だ、最初から話し掛けなければと思った矢先、目の前に何か入った袋を出された。
「珍しい薬草を見つけてね、沢山あるんだ。
どうだい、毒に効くよ」
半分押し付けられる様にその袋を手渡された。
「本当に良いんですか」
少し首を縦に振ったその人はではそろそろ失礼する、と言い残して城へ入って行った。
その後市場を見て回ったけれど、その人に貰った薬草はどこにも置いていなかった。
後で話し掛けて良かったなと。
(良い子じゃないか、シルヴィア、だったか?)
(一々会いに行くな)
17 Mars 2012.
Masse