フィレンツェへ、恋人のシルヴィアと買い物に来ていた。
今日は一段と天気は良いが、一段と寒かった。
周りを見渡せば皆手を繋いだり、寄り添う様に歩いていたり。
それに比べれば私達は何も。
周りから見れば親友か、それとも兄妹にしかこれでは見えないだろう。
近くもないし遠くもない私達の微妙な距離、話はたまに話すが何方も喋りではない。
考えて見れば待ち合わせしてから今まで何も話していない。
出来るのならば周りみたいに話したいし、手も繋ぎたい。
しかし勇気がない。
お前は意外と小さな男だなあ!とジェンティーリに言われながら背中を叩かれたが。
そんなこと言われても、無理なものは無理だ。
どのタイミングで手を取れば良いのか、嫌ではないのかと色々考えて結局諦める。
こんなことを考えていると君が知ったら、一体何を思うのだろうか。
きっと情けない男だと、笑うだろう。
「テオドールさん」
いきなり立ち止まったシルヴィアに合わせ、私も立ち止まる。
何事かとシルヴィアを見れば、シルヴィアは空を見上げていた。
「雪が降って来ましたよ」
そう言われて見上げれば、沢山の雪が風に舞っていた。
それは小さな雪で、積もる程の雪ではなかった。
まるで、良い雰囲気を作ってやったぞとでも言っている様に。
「綺麗ですね、テオドールさん」
あぁ、と聞こえない程の小さい声。
そして私はついに右手で、シルヴィアの左手を取った。
そっと触れるだけの、でも握っている、力のない握り方。
でも手を繋いでいるんだ、これ以上ハードルを上げないでくれ。
力加減がわからないんだ。
シルヴィアは一体どんな表情をしたのか恥ずかしくて見ていないが、少しだけ握り返してくれた。
手を繋げば自然と距離も縮んでいた。
私達の距離が、埋まる。
心も、埋まる。
シルヴィアの手は随分と冷たかった。
ああ、もっと早く繋いでいれば良かったと。
だから次は早く君の手を奪おう。
16 Mars 2012.
Masse