short | ナノ
Person Of Interest : JR/HF


「これ、あの店の新作だって店員に言われたから買ってきたんだ」
「……そうか」
「?どうしたんだフィンチ。嫌いだったか?」
「いや、ありがとうリース君」


明らかおかしい。
最近そう勘付いていたリースだったが今ので完全に何かあると確信した。
食べないのだ。
兎に角食べない。
俺の前では水以外何一つ口にしない。
これが始まったのは今週に入ってからで、フィンチの大好物のドーナツを買って来ても、アイスを買って来ても、それを一回見るだけでまたPCの画面に視線を移す。
食べ過ぎて嫌いになったか?
いや、それはない。
それだったら何か別の物を食べるだろうし。
じゃあ一体何だ?
リースはドーナツの箱を持って黙ってキーボードを叩き込んでいるフィンチに近づいた。


「ほら」
「……、」


美味そうだろ、とドーナツの箱の蓋を開けてフィンチに見せる。
トッピングからして正にフィンチが好みそうなやつばかりだ。
この店が新作を出す度フィンチはそれを買っているし、これならーー。


「わっ私はいい、君が食べたまえ」
「こんな砂糖の塊食べたら死んじまう」
「…。兎に角私はいい」


そう素っ気なく言ってばっとフィンチは椅子から立ち上がり、とことこ歩いて本棚を漁り始めた。
そこでリースはピンと来た。
ドーナツの箱を置いて、さっきから動作が変なフィンチに近寄る。


「俺はそのままのあんたが好きだ」


ピタ、と忙しなく動いていた手が止まり、にやにや笑みを浮かべているリースは後ろからフィンチを抱き締めた。
この、身長的にすっぽり腕の中に収まる恋人にリースは愛しさがこれでもかという程に込み上げてくるのを感じた。
俺を殺せるのは世界中探してもあんただけだ。


「俺にとって今のあんたが完璧だし、俺があんたに変えて欲しいと思うところなんてない」


リース君、と声にならないような小さな声で俺を呼ぶ。
その姿が可愛くて、抱き締める力を強くする。
フィンチの耳が真っ赤になっているのを見てちょっとストレートに言い過ぎたかと思ったが、全部本当のことだ。
いつもフィンチは俺の隣を歩くのに恥じないように背伸びしてくる。
そのままの彼といつもいたいから毎日俺はそれを伝えているけど、フィンチはまだ自分に自信を持っていない。
手を繋ぐのだって人目を気にして中々してくれない。
フィンチには俺が見えているものが見えていないって思うと悲しい。


「愛してる、ハロルド。ずっとだ」
「…うん、」


でも俺が心からそう思っているのをフィンチはわかっているから、こうやって俺の手を握ってくれる。
こういうのは慣れていないからとあんたは言うけど、俺はそういうあんたに惚れたんだ。
変わって欲しいなんて言わない。
あんたの笑った顔を見ると時間が止まったような気分になるんだ。
そんなこと、あんたに言っても信じないだろうが本当なんだ。
俺はハロルドをこっちに向かせて、優しいキスをした。
どんな甘いものよりも、ハロルドとするキスのほうが何倍も甘くて、何も考えれない。


14 April 2014.
Masse

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