Actor : M.Freeman/R.Armitage
" 一度君の家に行ってみたいな。すごく整理整頓されてそう "
撮影の空き時間にマーティンが笑いながらそう言ったのを僕は真に受けてしまって、その日から整理整頓を心がけるようになった。
今思えばあの言葉にはあまり意味はなかったんだろうと思うけど、僕はいつでもマーティンが家に来れる状態にしている。
自分でも嫌になるくらい、マーティンの言葉が常に頭の中にあるんだ。
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撮影の準備をスタッフがしていると、向こうの方でエイダンとマーティンが話しているのが聞こえた。
マーティンの周りはいつも楽しそうにしていて、僕は憧れてる。
準備には時間がかかりそうだったから僕はマーティン達に混じろうと近付いた。
「本当にあいつの部屋汚かったんだよ」
「えっ見えない!几帳面そうなのに」
「部屋は普通だったけど、クローゼットの中とか冷蔵庫の中とか最悪だった」
ぴたりと僕の足が止まる。
マーティンが今誰の話をしているのかなんて直ぐわかった。
エイダンやその周りのスタッフ達が笑う声が急にミュートになる。
僕は本当に馬鹿だ、あのマーティンの言葉には期待するなって言ってるのに。
そりゃそうだよ、だってマーティンとベネディクトは凄く仲がいいし。
プライベートでもよく遊びに行ったりしてるみたいだし、僕なんてマーティンの気を引くことなんて出来ないし…。
遠くから監督の声がしたけど、僕の耳には届かなかった。
「リチャード?リチャード」
「あっ、ごめん、なに?」
「空いてる日でいいから家に遊びに行かせてよ」
スタッフや俳優が全員動き始めたとき、マーティンが小走りで僕のところにやって来て、他の人には聞こえない程度の声でそう言った。
僕はもう一度聞き返したかった。
けれどマーティンが行くから、僕は慌てて彼の後を追った。
駄目だリチャード、今は仕事中。
考えちゃ駄目だぞ。
でも僕は凄く嬉しくて、顔には出さないけど、こんなに喜んでる自分が変だった。
マーティンが家に来るんだ。
ちゃんとクローゼットと冷蔵庫の中、整理しておかないと!
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「お邪魔しまーす」
週末、マーティンが家に遊びに来た。
勿論準備は出来てる。
クローゼットも冷蔵庫も完璧だ。
マーティンがつけてる香水の匂いが玄関に広がるのを僕は感じる。
「マーティン、お昼食べる?」
「うん、食べる。まさか作ってくれるの?」
「…うん、自信ないけど」
「じゃあ僕も手伝うよ」
仕事を始めてからずっと一人暮らしだから料理はそれなりに出来る。
けどマーティンの口に合うかどうかわからない。
そう思うと今更泣けてきた。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら手を洗っていると、横から悲鳴じみた声が飛んできた。
僕が慌てて目を向けるとマーティンが冷凍庫を指差して僕に言った。
「君、チョコレートアイスクリームになりたいの?」
「えっ」
「チョコアイスしかないじゃん、ハハッ、そんなに好きなのかよ」
マーティンは他にもブツブツなにか言ってたけど、僕はなにが面白いのか全くわからなくてハテナを浮かべてたら、マーティンはもういいよ、と言った。
でもちょっと嬉しかったな。
マーティンが僕の冷蔵庫見て笑ってくれたこと。
ベネディクトといるときのマーティンみたいで嬉しかった。
それから昼食を食べて、僕が洗い物を片付けていると、ソファーでマーティンが眠っていることに気が付いた。
疲れが溜まっているのかな、撮影が全て終わってからの方がゆっくり出来たかも知れない。
「マーティン?」
声をかけて、軽く揺すっても起きなかったから僕はマーティンを抱えて僕の寝室のベッドまで移動させた。
あのまま眠ったら絶対首が痛くなるっていうのもあるけど、一分でも長い時間マーティンにいて欲しいから。
どうか起きないで。
僕はマーティンの柔らかいブロンドに指を通して寝顔を近くで眺める。
僕が日々どんな思いで君に接しているか、わからないだろうね。
知ったら多分君は僕のことを嫌いになる。
君の前だと僕は酷く子どもになるんだ。
「ずっとここにいてよ、マーティン」
そんなこと出来ないのはわかってる。
時間が来たら家に帰って、アマンダにキスして、仕事に行ったら誰かと、ベネディクトと会って笑って。
僕なんて初めから君の瞳に映っていないんだ。
こんなの不公平すぎじゃないか。
ねえ、わかって。
僕の気持ちわかってよ。
「好きだよ、マーティン。僕は君が好きだ」
20 March 2014.
Masse
どっちが攻めかわからない…やっぱりマーティンかなあ。
チョコアイス愛しすぎてるりちゃみ殿、好きです。
でそれを笑ってるマーティン。
まーりちゃください。