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*Bagginshieldです.


Look to the sky


ジョンはもうひとつ疲れが落とせていない鉛のような身体を起き上がらせ、不意に荒くなっていた息を深呼吸して整えた。

そして割れるように痛む頭をそっと撫でた。

大分前に聞いていた銃声や爆発やらの騒音が、最近またジョンの頭の中で響き始めたのだ。

戦場での光景が未だにこうやって自分を苦しめていることにジョンはただ苦笑するしかなかった。

挫折なんて全く自分に似合わない。

今までは何もかも上手くいっていた筈なのに。

築き上げたものが一つの怪我によって一変してしまった。

ジョンはそっと足に触れ、全く何てざまだ、と思った。

あの頃とは違って今の自分は腐敗している、とも。


ジョンは杖を持ち、近くの公園まで散歩がてら行くことにした。

足が悪くなってからは行動範囲が狭くなり、歩き慣れた道をジョンは面白くなさそうに歩く。

行き交う人々や時間が前よりゆっくり進むように感じる。

空気を吸って吐くという動作さえ。

ジョンは世の中と自分が切り離されていることに焦りも何も感じなかった。

カツカツ、とジョンが歩く足音が鳴る。

ーーこんなことになるなんてな。

ジョンはまたそうやって思考の入り口に立つ。


「ビルボ」


その男は確かにそう言った。

だがジョンは足を止めることもせずカツカツと歩きづらそうに歩いている。


「ビルボ・バギンズ」


もう一度その男は言った。

その少し苛立った、乱暴な声をジョンは聞き取った。

勢いのあったジョンの足取りがその声によってぴたりと止められた。

ジョンはその言葉が何を示しているのか全くわからなかったが、くるりと振り返った。

この公園で声をかけられるなんて今はジョンひとりしかいなかった。

真っ直ぐジョンを見ていたのは痩せ身で長身の(年齢は三十代くらいか)、肌の白い男だった。

自分を見つめるその蒼い瞳に、不思議とジョンは見覚えがあった。

しかし慌てて口から言葉を出した。


「あー、すいません。バギンズって?」


ジョンは頭をフル回転してもこの男とは初対面な気がしていた。

だがこの男の顔を見る限り、この人は僕のことを知っているみたいだ、とジョンは見て取れた。


「寝ぼけているのか?」
「え?」


勿論寝ぼけている訳ではないと言いたかったが相手が本当に不思議そうにしているので、ジョンはもしかして自分が覚えていないだけなのかも知れないと思った。

参ったな、大抵のことは覚えているんだけど。

ジョンは軽く咳払いをした。


「名前を伺っても?」
「…トーリン・オーケンシールドだ」


変わった名前の人だとジョンは思った。

さっきの名前といい、この国の人じゃないのかも知れない。

ジョンが呑気にそんなことを考えていると男は眉を顰め一歩ジョンに近付いた。


「以前見た時は、君は足なんて悪くなかった」


ジョンはあからさまに肩を震わせた。

一体この人は誰だ。

まさか戦場で一緒になったことがあるのか?

以前っていつだ?

戦争に行く前に僕はこの人と会っていたことになる。

わからないことが多すぎて、整理が出来ない。

ジョンはいつもと違う眩暈を覚えた。


「あれから何があった、ビルボ」


そしてまたその名前か。

もしかしたら僕は戦場で怪我を負った時に一部記憶を失ったのかも知れない。

しかしそもそも名前が違う。

相手の様子からして人違いの様子はない。

ジョンはこの数回の会話でどっと疲れてしまい(特に足が)、ジョンはその男に何処か喫茶店にでも入りませんかと言った。

男は小さく頷き、二人の間に流れる長い沈黙をジョンは一方的に気まずい沈黙と捉えて益々足取りは悪くなった。

ジョンは気付かなかったが、男はずっと手を強く握り締めたまま、ジョンの不自由な足を見つめていた。


5 March 2014.
Masse


pixivに上げていた小説をこのサイトでも読めるようにして欲しいとの事でそうさせて頂きました。
動画でもAUとしてありますよね。気に入っているので続けるつもりです←
本当色んなものに首を突っ込みすぎていろいろ処理出来てないんですけど(オイ)
Ky様、リクエストありがとうございました!

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