「…良いのか?」
「何が」
「こんな事して」
「何で」
「何でってお前…恋人いるんじゃないのか」
「別に良いんだよ。飽きたから」
バーで適当な男を引っ掛けてホテルに入った。
頭は重いしズキズキ痛む。
足にちゃんと力が入らない程に自分を酔わせてあいつの事を考えないようにしたが、まあ無理だった。
じゃあ一体どうしろって言うんだ。
益々腹が立って名も知らない男の唇に食いついた。
ああ全然違う。
あいつじゃない。
いつもと違う味に俺は思わず眉を顰めた。
荒々しく男の服を剥ぎ取って上に覆い被さる。
ムードなんて要らないだろ。
気分が良かったらもっと優しくしてあげるが生憎今は無理だ。
適当に指を入れて、解れてきたら自分のを入れる。
興奮なんてしていない。
普通はせわしない粘着質な水音と濡れた声が聞こえるんだろうが、今の俺の頭には記憶されたあいつの鳴く声しか聞こえていない。
こんな男の風には乱れない。
ーーー何で、こんな事になったんだ。
何一つ狂っていなかった筈だった。
どっちが事を間違えたのかもお互い分かっていない。
このまま進んじまうのか。
こんなものだったのか、俺達の仲は。
結局理性を失わずに俺は男の中に冷たい液を吐いた。
気分が悪い。
***
帰ったのはまだ日が出ていない時間だった。
今日は仕事があるからシャワーを浴びて着替え、支度を整えて直ぐ家を出るつもりだ。
俺は音を立てないように玄関のドアを開け中に入り、何か飲みたくてリビングに行く。
するとそこには寝ていると思っていたリチャードが机に伏せるように座っていた。
一瞬俺は足も思考も呼吸も忘れてそこに突っ立った。
見ると机には数本の酒が開けられていて、それらは全て空だった。
一人酒に浸っていたのか。
俺はそっとリチャードに近付き眠っている事を確認する。
頬に触れると酷く冷えていて、微かに涙が流れた跡があった。
それを見た瞬間、今までのむしゃくしゃした感情やらは消え、罪悪感だけが残る。
こんな事、初めてだったかな。
だからお互いどうすれば良かったのかわからなかったんだ。
俺はお前の事をわかっている振りをしていただけだった。
本当は何にもわかっていない。
俺は恋人なのにな、本当に馬鹿だ。
愛してくれているっていう事だけで十分だったのに。
「リチャード」
名前を呼んだのは良いが、今更優しい言葉を掛けるのは気が引けた。
目を覚ましてもこいつは優しいからきっといつもの顔でお帰り、とか言う。
怒鳴りつけられても普通なのにそんな事は絶対しない。
俺はそこが好きで、でも嫌いなところだ。
彼のようにはなれない。
俺は結局リチャードを起こす事なくやる事を済ませ家を出た。
You Already Know
11 February 2014.
Masse
浮気するLEさんってリクエスト頂いたのですが案の定暴走しました,すいません…
美和子様、リクエストありがとうございました!:)