サラと初めて出会った時の事を今でも覚えている。
サラはもう忘れてしまっていると思うが。
「ヘイザムさん?」
いつもの控えめなノックをしたので私は読んでいた本から扉に目線を向ける。
五年前だった。
一目見た時、内気なひとだと思った。
貴族の生まれにも関わらず自分に自信がないのか、それともこの場が気に食わないのか分からないが、兎に角彼女は目立たないようにそこにいた。
グラスを両手で持ち、誰とも目を合わせないように俯いている。
私は先に用事を済ませて、さっき彼女がいた場所に行くと、彼女はまだそこにいた。
このまま帰るつもりでいたが何となく彼女を放って置けなくて、少しの時間話す事にした。
挨拶でもして、彼女が少しでも気が緩むようにと思っていた筈が、声を掛けた私に振り向いた表情が幼くて思わず口籠ってしまった。
いや幼かったのではない、品のある顔立ちだった。
そして真っ直ぐな目で私を見たので私は余り上手く話せなかった。
でも彼女は言葉を返してくれて、上辺だけの姿ではないとその時思った。
こんな簡単な会話なのに彼女の頭の良さがわかる。
そこら辺りにいる女性とは違う。
私は気が付けば彼女に惚れていた。
「開けてもいいですか?」
「ああ」
兎に角私の心を掴んだ魅力的な女性なのに、まるで自分に自信がないという感じでいつも歩いている。
彼女の得意技はよそ見。
損をしていると思った。
きっと気が付いていないんだろう、だが君は本当に素敵なひとだと私は言いたかった。
直ぐに私の気持ちによそ見をする彼女が私の隣にいてくれたら、その事をちゃんと教えてあげれるのに。
「今から市場に行ってきますね」
段々彼女は私に笑ってくれるようになった。
とは言っても微笑む程度だったが、私はその表情が好きだった。
君は笑っていた方が良い。
浮かない顔でいては駄目だ。
そんなものは君には全然似合わない。
心からそう思っているからこんな事が言えるんだよ、とサラに言うと彼女は顔を真っ赤にして数日間口をきいてくれない日が続いた。
君は私の大切な存在だ、この気持ちは変わらない。
「私も一緒に行こう」
Treasure, That is What You Are
7 February 2014.
Masse
積極的なヘイザム目指しました.
るー様、リクエストありがとうございました!:)