二階へ続く階段を上っているとすっかり聞き慣れた音楽がサラの部屋から聞こえた。
その音楽に僕はぴたりと足を止める。
最近サラは夜になるとこの音楽を繰り返し流すようになった。
一体何を思ったのか、僕は考えてもわからない。
僕はわざと足音を鳴らして階段を上がった。
「またその曲か」
ノックもせずに扉を開ける。
いつもなら驚いた顔をして僕に何か一言言うのに、この音楽を聴いている時は何処か上の空だ。
椅子に座って膝に読みかけの本が置いてあった。
「おい」
「…!シャーロック」
「寝るならこれを消してから寝ろ」
「あぁ、うん」
今使うのには古いカセットテープを機械から取り出しそれを机に置いた。
カセットテープは昔の物みたいで少し汚れている。
「何故その曲ばかり聴くんだ?」
僕はそっとそのカセットテープが置かれた机に近付き、カセットテープを観察するように持った。
そしてベッドに入ったサラに聞く。
「昔よく聴いてたから、自然と昔の事を思い出すのよ。その時何してたか、とかその時好きだった物とか」
「思い出してどうするんだ」
「別にどうしようもないけど…懐かしいなぁって思うだけ、かな」
ーー君は昔が恋しいのか。
そう言いかけた口をぐっと閉じる。
当然、僕にはサラが昔何してたか、サラが昔好きだった物なんて知らない。
サラと出会って数年間、それと今まで生きてきた年と比べてもそれはまだまだ短い。
僕の知らないサラがいる。
でもそれはどうにも出来ない事だ。
「シャーロック?」
僕はそのカセットテープをポケットに仕舞い込んだ。
そしてサラの頬に一つキスをして部屋を出た。
昔の事なんてどうでもいい。
君は今、そしてこれからの事を考えていればいいんだ。
僕が知る事の出来ない君なんて必要ない。
自分の寝室に入ると鍵のかかった机の引き出しにそれを入れた。
もう二度と昔を振り返ったりしないように。
けれどサラが好んでかけたあの曲はずっと僕の頭の中で流れた。
I Will Never Walk Away Again
29 January 2014.
Masse
リナ様、リクエストありがとうございました! :)