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蒼く澄んだ低い空を見上げると、白い小さな塊が見えた。

それはゆっくり私の手に落ちると一瞬の内に水になった。

初雪だ。

さっきの雪が始まりだったかのように空から次々と雪が降り始める。

直ぐに止みそうな気配だったので少し残念な気もした。


「霖、こんな所で何をしているんだ」


中にいるのに襟巻きをしている秋彦さんが私に戸を開けて言った。

私は彼がいつもより顔を顰めているのに気が付いた。

そして私は秋彦さんに一言も言わず中庭に出ていた事を思い出す。


「勝手に出てごめんなさい」
「僕は君が上着も着ないで外に出ている事に怒っているんだよ」
「…それも、そうですね」


寒いのには慣れていたから気にも留めていなかった。

そんな私を見た秋彦さんは突っ掛けを履いて外に出て来た。


「寒いですよ?」
「君の方が寒いだろう」
「そうでもないです」
「君が早く中に入ってくれさえすれば僕も冷えなくて済む」
「まあそう言わずに。しかし秋彦さん、綺麗ですね」
「…」


手が軽く濡れてじわじわと冷たさが伝わって来る。

両手で摩っていると、肩に重みが掛かった。

よく温められたその裾を私の冷えた手で握った。


「襟巻きも」
「年上を敬い賜え」
「ーー違う、こうするんです」


振り向いて秋彦さんに近寄ると、少し背伸びをして襟巻きを一旦ほどいて、秋彦さんと私の首に巻いた。

最中、秋彦さんはずっと疑い深い目で私の手つきを見ていたので、手が震えたけれどそれは寒さのせいだ。

私が予想外の事をしたのか秋彦さんは少し驚いているみたいだった。

滅多に見せない表情に私は嬉しかったのかも知れない。


「霖」
「?」
「隙間が出来て寒い」


秋彦さんと私には身長差があるのでそれには無理があった。

でも襟巻きだけの秋彦さんが言うので私が寄ると、すっぽり秋彦さんの肩に私の顔が埋まる状態になった。

今頃になって、心臓が大きく脈打っている事に気が付く。

一気に耳まで真っ赤になった気がした。

私はすっかり硬直して仕舞って、右手が秋彦さんの左手に握られている事に気付いたのはこの後だった。


「好きだ、君の事が」


秋彦さんと私以外誰もいなかったから。

雪は物凄く静かに降っていたから。

秋彦さんがこんなにも近くにいたから、その言葉ははっきりと私に届いた。

私を抱き締めていた秋彦さんの腕が離され、秋彦さんと目が合う。


「ずっと好きだった」


すっと私の頬に触れた手は酷く冷たかったけれど、私の熱がそれによって冷まされる。

私から離れようとした秋彦さんの手を掴んで、


「離さないで」


そう言って指を絡めると、秋彦さんはもう一つの手を私の頬に添えて、長い口づけをした。

これからも私を離さないで、好きでいてくれる?

私だけを見ていてくれる?

この返事がこの口づけだって思ってもいい?


2 November 2013.
Masse


From. Lana Del Rey - Young and Beautiful
それで見事に二人とも風邪を引いて、みんな勘付いているのに関口先生だけ何も思わなかったという話.
そこまで書きたかったんだけど、ちょっと無理だった.

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