*長編ヒロイン
ある日のお昼時。
私は保安部の食堂で一人昼食をとっていた。
午後からの診察は同僚が担当するから、街に出て人気の料理店にでも行こうかと思ったけど、また海賊に出くわすのもなんだからここで済ませることにした。
誰もいない窓際の席に座ってぼんやり外を眺めながら美味しさに欠けるご飯を食べる。
…相変わらず汚い街だ。
余裕ができたらこの島を出ようか。
いや、どこ行っても海賊はいるか。
「暇そうですね」
座んな、と言ったのを無視されそいつは隣に座った。
いつも持ってるステッキをテーブルの上に置き、私の方を見た。
「これから暇ですか」
「…(嫌な予感的中)」
「寄りたい所があるんです」
「へー」
「…」
残っていたジュースをずるずると飲む。
いつもラフィットに会ったらどこかへ連れ出される。
連れ出されてはろくなことがない。
「午後から診察あるから」
「ないです」
「今から出張」
「明後日から」
「今ご飯食べてるし」
「食べ終わったら」
キッと睨む。
本当にめんどくさい人だ。
そもそも寄りたい所ってどこ。
その時点で行きたくない。
ジュースの氷をごりごり噛みながら聞いた。
「どこ行くの?」
「行ってくれるんですか」
「聞いただけ」
「映画」
「へー………映画?」
「はい」
ん?映画?
ただの殺し屋(失礼)が映画なんか観るのか?
真顔で言うな。
「なんで映画?」
「暇なんでしょう」
「…私映画嫌いなんだよね」
「はい嘘をつかない」
急に立ったと思えばお盆を持たれスタスタと歩いて行く。
私はテーブルに忘れられたステッキを持ち、慌ててその後を追った。
今日くらい良いことがあるかも知れない、と少し期待しながら。
28 July 2013.
Masse