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夏のある日。

家に霖が訪ねて来た。

突然の事だったので僕は慌てて、此処には何もないから外へ出掛けよう、と言った。

霖は後ろに隠していた大きな紙袋を僕に見せ、これがあります、と笑って家に上がった。


「それは何だい?」


居間に通そうと思ったら霖は台所へ行き、紙袋の中を漁っている。

あれ、髪の毛を少し切ったか。

そう言おうとしたが遮られた。


「果物です。好きでしょ?」
「ああ。ありがとう」
「いえいえ」


切った果物を皿に乗せ、居間に向かう。

前を歩く霖から微かに香水の匂いがした。

香水なんて珍しいな、いや、何処か立ち寄って来たのかも知れない。

お茶を入れ、僕と霖は床に座った。


「久し振りだね。半年くらいかな」
「そんな前でした?」
「ああ、凄く寒かったのを覚えてるよ」


そうでしたね、と霖は小さく微笑んだ。

変わった、と思った。

暫く会わない内に雰囲気も仕草も大人になった。

何かあったのかなんて聞けないので僕はお茶を啜る。


「仕事は順調かい?」
「普通です、かね」


表情を曇らせた。

ああきっと、仕事で何かあったのだろう。

相談に乗れる程僕は出来た人間ではない。

僕は霖に何一つしてやれる事などないから。

そう思って霖を見ると目が合った。

この林檎美味しいですね、と霖が言う。

霖がこうやって僕を訪ねて来てくれる事が、僕は嬉しかった。

風鈴が風に揺られて鳴る。

今日は夏らしい暑さではない。

秋が近付いている、と思った。


「僕は大抵家にいるから、何時でも来ると良いよ」


君みたいに忙しい訳でもないから、と僕は鼻を掻きながら言った。

霖は何に驚いたのか分からないが一瞬固まって、すぐ笑顔に戻った。


「ありがとうございます」
「うん」
「あの、今日夏祭りがあるんですけど、一緒に行きませんか?」


今度は僕が驚く番だった。

霖の、真っ直ぐな黒い瞳に吸い込まれそうになる。


「ああ、良いよ」


霖は嬉しそうに笑ったので僕も笑った。

やっぱり君は大人びた笑顔より、今の笑顔の方が魅力的だ。

僕が君を笑顔に出来るのなら、何でもしよう、と。


27 August 2013.
Masse

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